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京大漫トロピーのブログです

【12/7】卵【きねだやいば】

どうも、田中です。

最近とても寒いですよね。寒いと何もやる気が起きません。自分は仙台出身なのですが、寒さには弱く、最近は1,2限をことごとくサボりベッドでゴロゴロしてます。そんな生活続けていると周りから徐々に取り残されていっているような気がして、なかなか寂しい気持ちになりますね。

今年のテーマは「誕生」。日々世の中ではいろいろなものが誕生していくわけですが、0から何かを生み出すのってすごい大変なことで、私たちが普段何気なく読んでいる漫画もその誕生の裏には作者の血の滲むような努力や苦難があったりするものです。

というわけで今回紹介する漫画がこちら。

「描かないマンガ家」

大好きな漫画です。



まずはWikipediaよりあらすじ。

商業漫画家でもなく同人漫画家でもない第三の漫画家・“描かないマンガ家”――それが、器根田刃である。マンガ専門学校に通いながらも、恐ろしく絵が下手で、これまで一切ネームすら描いたことがない、自称・マンガ家の彼が、マンガを描く日は果たして来るのか!?(ジャンル:ギャグ漫画)


万事横柄に振る舞い、他人の仕事にとやかく口を出し、何も努力をしていないのに、自分だけは成功すると信じてやまない。漫画を描く苦しみも喜びも知らない漫画家気取りの26歳。そんなダメ人間がこの漫画の主人公・・・

本名 渡邉雄大


とりあえず、大まかに話の流れを書いていきます。

まずこの漫画、前半は刃の周りのキャラクター達にほとんどフォーカスが当てられ、刃自身は実質彼らの漫画家人生の脇役みたいな立ち回りをします。

例えば第1巻のこの話。
かつて大学で刃と同じ漫研に所属していた岡田満希は、一度は漫画家になることを諦め今は商社で働いている。ある日彼女は偶然刃と再会する。

散々の言われようである

その後色々あって…

根拠のない自信も、人生に悩んでいる人間にはついつい輝いて見えてしまう。

彼女は再び漫画家を志す。

こんな感じで、しばらくは刃の周りのキャラクターが刃の影響を受けつつ、夢である連載に向かって努力していく姿が描かれます。

彼らはコツコツと努力や経験を積み重ね、数々の苦悩や挫折の末、自身の弱みを克服し、やっとのことで連載を勝ち取っていく。
ここまで見れば涙あり、笑いありの青春ドラマなのですが、そうは終わらない。


周りのキャラクターたちがどんどん経験値を積み重ねてく中、一人だけ漫画を描かない主人公・刃にはどんどんツケが溜まっていく。


皆が次々と漫画家になったり進路を決めたりしていく中、ふと気づいたら何もしないで取り残されているのは主人公・器根田刃だけ...。

そう、ここまできてやっと主人公である刃の物語がスタートします。(ここまでで5巻。全7巻)


とまあ、ここまですごいおおまかにストーリーを解説したんですが、このストーリーの構成がすごい特殊で面白いと思うんです。

この漫画のストーリーの流れは以下のようになっています。
・主人公が終盤まで何も行動を起こさない
・主人公が行動を起こさない間は主人公の周りのキャラクターに焦点が置かれ、彼らが行動を起こすことによって話が進んでいく
・ある程度まで話が進んだ時、主人公が何も行動を起こさなかった結果として、必然的な流れで主人公にフォーカスが移り、クライマックスを迎える。

めちゃくちゃ流れが綺麗だし、この「描かない漫画家」である主人公をいかにして描くかという問題を、「描く漫画家」である主人公以外のキャラクターを描くことによって解決しているというのがすごい面白いと思う。

あと、この漫画は構成以外の部分も素晴らしい。独特なアートスタイルやギャグセンス、インパクト・センスあるセリフ、多くの魅力的なキャラクター達、常に読者を驚かせてくれる展開など、瞬間的な面白さについてもハイレベル。イロモノ漫画かと思って読めばストレートな面白さもしっかり備えている。

もう一つ書いておきたいことがあって、主人公・刃先生は上に書いたように本当にどうしようもないダメ人間なんですが、そんな彼の描かれ方からは確かに作者の彼への愛情が感じられる。漫画家である作者が描く漫画家達はみんな魅力的で、作者が責任を持って愛情を込めて描いてる様が伝わってくるのですが、中でも刃先生の描かれ方は一際丁寧です。だからこそそれを読んでいる読者もダメ人間である彼をむやみやたらに否定したり突き放したりせず、自分のうちに潜む可能性の一つとして真摯に受け止めることができる。

非常に心地いい、爽やかな読後感が得られる年末年始にぴったりの漫画です。