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京大漫トロピーのブログです

【12/14】人生の中の「偶然と必然」-星里もちる『りびんぐゲーム』(ネタバレなし)-

あなたは何でもできる。未来は真っ白なんだから。よくある決まり文句だ。

だが、本当に自分の人生を真っ白なんて言葉で表現してもいいのだろうか。

星里もちるの漫画『りびんぐゲーム』の最終話にこんなセリフがある。

「でも、出会いって不思議ですよね。ここのビルが傾くことがなかったら、そのあと俺の周りで起こるすべての出来事はひとつも起こらなかったんだから。」(主人公・不破雷蔵)

片岡ともがシナリオを書いた名作ノベルゲーム『ラムネ』の中で僕が好きな場面がある。幼馴染の七海がかつて好きだった主人公・健次に過去を振り返りながら感慨深く語りかける場面だ(PS2版佐倉ルート)。主人公には佐倉という大切な恋人がいる。

七海「不思議だよね…キッカケとか偶然とか、人の縁とか…」

健次は問う。
「仮に、佐倉が居なかったら、俺達どうなっていただろうな?」

「でもね、今はそれを考えても無意味だと思う
「だって、例え、これから何かが起こったとしても、何かが終わったとしても…」
「今まで積み重ねたモノは減らないし、変わらない…」

ここから「偶然と必然」が人生を動かすという片岡ともの人生観が示される。

健次「これが…偶然や運命ってのか…」
七海「うーん、どうなんだろうね…」
七海「もしかしたら、必然なのかもしれないし、見えないナニかなのかも…」
もしくは、その全てなのかもしれない。
様々な、偶然や必然やその全てによって、子供の頃からそれなりに共に過ごしてきた七海。
家族のようでもあり、お姉さんのようでもあり…
今では、幼なじみと呼ばれる親友へとなった。

人生は「偶然と必然」でできている。「偶然」によって出会いが生まれ、人と人とが「必然」的に惹かれあい人生は進んでいく。「偶然と必然」に導かれた個々の人生の過程で生まれたひとりひとりの「想い」とでも呼べるようなもの。それが結びつく奇跡を「運命」と呼ぶのだと僕は思う。

りびんぐゲーム』に星里もちるが込めたものも同じことだ。

雷蔵らが最後の結末に至るまでには、さまざまな「偶然」があった。そのひとつひとつの「可能性」が浮かんでは消えていき、わずかな「可能性」だけが選び取られていく。そうして雷蔵の人生は進んでいく。

星里もちるの話の作り方が僕は好きだ。

りびんぐゲーム』では、偶然の出来事や出会いがきっかけにキャラクターが考えを変えていく。でも変わった考えをそのまま持ち続けるわけじゃない。また偶然の出来事がきっかけで挫折したり、状況が元に戻ったらまた気が変わって一度決めた決心を反故にするキャラクターもいる。でも、その「偶然」の中にも確実に人のナニかを変える出来事もある。そうやって少しずつ人は自分のカタチを変えていきながら時間が流れていく。人生の道が決まっていく。

りびんぐゲーム』の何よりすごいところは、キャラクターたちの微細な変化を逃さず捉える星里もちるの描写力だ。セリフ回しも抜群にうまく、ひとつひとつのセリフにキャラクターの人生の積み重ねを感じさせられる。それでいてエンタメとしても完成度が高い。とにかく非の打ち所が全くないくらいレベルの高いことをやっている。ただただ、すごい。ベタ褒めになってしまった。みんな読んで欲しいなあ。

(ちろきしん)