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京大漫トロピーのブログです

【12/17】「マイ・ブロークン・マリコ」を読め

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こんにちは、レニです。今年のアドベントカレンダーのテーマは「パーティー」ということで、パーティーのコマから始めてみました。

ところで、来年の漫トロランキング1位の漫画をご存じですか?そう、「マイ・ブロークン・マリコ」です。

comic-walker.com

今回アドカを書くにあたって色々内容を考えていたのですが、先程最高の漫画「マイ・ブロークン・マリコ」の最終回が公開されたので、急遽予定を変更してレビューしたいと思います。あらすじはこんな感じ。「ガラの悪いOLのシイノは外回り先の定食屋でひとつのニュースを見かける。それは親友、マリコの突然の死を告げるものだった。何の前触れもなく突然死んでしまった親友-。彼女の壮絶な生い立ちをそばで知っていたシイノは、死んでしまったマリコのために、その遺骨をかつて彼女が虐待されていた実家から盗み出した。シイノはマリコの遺骨とともに、かつて行きたくても行けなかった海に向かった」(4話扉ページより)。まだ読んでない?今読んでください。



この漫画の特徴は、虐待や自殺といった重苦しいテーマを、どこかポップな軽妙さの中に描き出している点。『君に愛されて痛かった』や『愛と呪い』は終始不穏さや陰鬱さが立ち込めているけど、この漫画はむしろ動と静、明と暗を書き分けていて、そのメリハリの付け方がめっちゃ上手い。

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例えば1話のこのシーン。右ページでセリフやキャラがさんざん暴れ散らかした後、左ページで一気に静まり返る。キャラクターも、右のシイノは誇張されてどこか戯画的だけど、左のマリコは涙ぐんだ瞳から殴られた跡まで繊細に描かれている。虐待のリアルを突然見せつけられて、ゾクッとしてしまいます。

この話のクライマックス、虐待していた父親からマリコの遺骨を奪い返す場面でも、その対比が生きてくる。シイノはマリコを虐待していた父親に飛びかかって遺骨を奪い、蹴って殴っての大立ち回りを繰り広げた後、最後は窓から飛び降りてアクション映画さながらの大脱出をするんだけど、その中で一瞬の「静」を入れて、あえて流れをブチ切る。そしてそこに生じた空白地帯に主人公のセリフと感情を叩きつけ、読者にダイレクトに響かせる。アップテンポで激しい展開でリズムを取りながらの、狙い澄ました重い一撃。さながらジャブとストレート。主人公の気持ちで殴られ続け、読者の心は死ぬのです。
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んで、今日公開された4話ですよ。本当に良かった。マリコは壮絶な環境に置かれ続けたせいで、そのような我が身を仕方ないものとして諦めてしまっていたんですね。だからシイノはマリコを助けられない。シイノがマリコの実家のドアを全力で叩いたところで、マリコを誑かす悪い男をフライパンで殴りつけたところで(記事の最初に貼ったシーンだ)、シイノがどんなにマリコに手を伸ばしたところで、マリコはその手を取ろうとはせず、助けを求めることもない。ただ世界に乾いた笑いを向けるだけで、そのまま一人で死んでいってしまった。嗚呼、愛しい人がすぐ傍にいるのに救えなかった、その無力感!
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最終話の最大の山場、シイノはマリコの遺骨とともに、崖から海へ落ちます。これは当然、心中のメタファーなわけですね。女性同士の心中というのは昔から、現世のしがらみから解放された永続する親密な関係、究極のロマンティック・ラブの象徴とされるモチーフです。そしてここで描かれるのもやはり無力感。風に流され、重力に逆らえないマリコを、シイノはまたしても掴むことができないのです。加えて1話の遺骨とともに窓から飛び降りるシーン、さらには冒頭に描かれるマリコの飛び降り自殺のニュースと何もしてやれなかったというシイノの思いもオーバーラップして、メチャクチャ気持ちがいい。
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しかしラストシーン。遺骨とともに日常へ戻ってきたシイノに、今度はマリコからささやかな、しかし大きな救いの手が差し出されるのです。僕はここで泣きそうになってしまった。やっぱ来年の1位は決まったな。

本当はもっと語りたいことがあるのですが、現在1話と4話しか公開されていないのと、ComicWalkerがメンテに入ったので(この前も落ちてたよな?)、残りは座談会に取っておこうと思います。というわけで、「マイ・ブロークン・マリコ」は単行本で2020年1月8日発売です。みんな読んでランキングに入れような。