ちろきしんです。セイといえば二卵性(セイ)双生(セイ)児。つまり双子だ。
双子(三つ子でも五つ子でもない)が同じ人を好きになるという物語類型はゼロ年代によく見られた。
互いの同一性と差異の狭間で悩みながら、互いに転移や競争を繰り返して三角関係を築き上げる。
ゼロ年代の精神分析的な想像力の最も代表的な物語類型だと思う。
『あきそら』では、双子の妹、ナミが兄のソラに想い人である可奈を取られてしまい、自分が男性であったらとの思いから兄の陰茎を切り落とそうとする。
『恋愛ディストーション』では、双子の妹の彼氏が好きになってしまったまほという女性の苦しみが過去の回想という形で描かれている。
「どうして姿かたちは同じなのに」
「隣にいるのが私ではダメなのだろうかと」
そんな想いを紙に綴った過去が描かれる。
まほは物語時空上の現在、故郷を離れて東京でかつての想い人に似たメガネの彼氏、江戸川くんと暮らしている。そこには想い人に対する投影もあったのかもしれない。未練も完全には抜けきっていない。それでも時間の経過の効果と現在の人間関係に支えられながら傷は少しずつ癒えていく。
美少女ゲームにもおそらくたくさんの例があるだろうが、ここではkey作品に登場する双子に注目したい。『CLANNAD』の藤林姉妹と『リトルバスターズ!』の葉留佳と佳奈多だ。
藤林姉妹のルートでも葉留佳・佳奈多のルートでも、あえて自分ではない方の格好を装って愛を確認するという内容の話が展開される。双子という設定を使ってライターが表現したいのは、自分が置き換え可能なのではないかという自己の唯一性の不安である。
藤林杏ルートでは杏は先に椋の朋也への気持ちを知ってしまったばかりに二人の恋を応援せざるを得なくなってしまう。抑圧を続けた想いは暴発し、朋也は杏の想いを知る。そして、朋也は椋と別れる決心をする。
椋(実は中身は杏)に朋也は画像のように訴える。双子をヒロインに配置した時、男側から見ると、一方と話している時は同時にもう片方を連想し、他方を連想している時はもう片方を連想する。そんな心の動きが描きやすくなる。
これは先程「恋ディス」の際のかつての想い人を今の彼氏に投影するまほの心の動きに似ている。これは双子じゃないとできない。五つ子のヒロインが登場する恋愛作品があったとしよう。ヒロインの誰か一人と話す時、一体他の誰を連想するというのか。
何が五等分の花嫁だ。あんなのは双子作品の皮を被った偽物だ。
以上に述べたように、双子という設定には豊かな可能性がある。
ある時から、清盛という漫トロ会員が突然『双恋』に狂ってしまった。かのufotable制作の名作「フタコイオルタ」ではなく、『双恋』である。彼は「『双恋』の"可能性"」などという訳の分からないことをことあるごとに語る。「フタコイオルタ」は偽物なのだそうだ。
そこまで言うからにはと思ってアニメ版を視聴してみることにした。『双恋』は、双子の美少女たちと恋愛をするという内容雑誌『電撃G's magazine』発のメディアミックス作品だ。
ちょっとスケベな主人公・望くんとメインで恋に落ちるのは一条姉妹と桜月姉妹である。
一条姉妹は幼時主人公と結婚の約束をした幼馴染だ。
なんとも都合のいい設定である。少年誌のラブコメなら、誰かと結婚の約束をしたという記憶だけ覚えている主人公が、誰が約束の女の子なのかわからずに思い悩むという展開になっているだろう。そこにドラマがあるはずだ。
桜月姉妹は世間知らずの箱入り娘姉妹だ。ちょっと主人公が財布を拾っただけで、その出会いを運命だと勘違いしてしまうキュートな二人だ。まだ1話である。
その後はダラダラとモテモテの主人公とそれを羨む親友キャラみたいな構図の話が続いていく。だが、話が進むうちに主人公に必ずしも好意を示さないキャラが二人出てくる。
一人は白鐘沙羅。妹の双樹は病気がちで不登校。双樹は、例のごとく男性慣れしていないので、偶然出会った主人公にすぐに惹かれてしまう。妹思いの沙羅は、主人公の優柔不断さを見抜き、「双樹を泣かせたら私が許さない。その女の子ときっぱり別れて、双樹と付き合え!」と要求する。
ところが、である。この沙羅、なんと登場から次の回には、主人公に向かって「双樹がなぜお前に惹かれたか、わかった気がする。」と驚愕の一言を発する。主人公からなんかすごいフェロモンが出てるんだろうか。
もう一人は桧山優也。一条姉妹の姉・薫子のことが好きなイケメンである。航空物理学の研究を志し、将来はロケットを作るのが夢だそうだ。『ふたつのスピカ』の世界から飛び出してきたような人間である。わふー!
勉学も優秀な好青年の彼は、高校に受かったら薫子に告白すると主人公に告げる。主人公は別に女に困っているわけでもないし、そんなに薫子に特別に入れ上げていたわけではなかったはずなのだが、俺の縄張りに入ってくるなとばかりに不快になる。家父長制を内面化している彼は一条姉妹や桜月姉妹は自分の所有物だとでも思っているのだろう。最低だ。
優也の告白とその顛末はアニメの終盤に描かれる。薫子は優也の告白と妹の菫子の主人公への気持ちを知ったことを機に主人公に対する恋心に気づいてしまう。そして一条姉妹は二人揃って主人公に告白する。なんともお気楽なアニメだ。クライマックスの桜月姉妹の転校話はもういいだろう。特に語るべきことではない。
先程述べたように、双子という設定にはゆたかな可能性がある。たくさんの双子と恋愛するという素晴らしい設定を持っておきながら大して姉妹たちの心情が掘り下げられることもなく終わったのは残念だった。クリスマスプレゼントには、『双恋』リメイクを切に願う。