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京大漫トロピーのブログです

【12/22】中多紗江編④(終)

中多紗江編 第4章「コイビト」

ミシ:名残惜しさも感じる。最終回です。
醤油:「コウハイ」から「トックン」を経て「ヘンカク」。そして「コイビト」ですか。全て関係性の変遷を明快に表します。類を見ぬ、完璧なサブタイトルですね。
QP:その点に関しては認めざるを得ません。
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(前回のラスト。幸福なデートから一転。再び押し入れの中にひき籠もってしまう純一)
(純一「好きだよ」)
(ナレ「少女の頑張りで大きく動き始めた恋のメリーゴーランド。しかし少年は、その動きに翻弄されていたのであった」)
(純一「ちゃんと僕から言わなくちゃ。でも……」)
(ナレ「2年前のクリスマスに経験した失恋が、少年を恋に臆病にさせていた。少年よ、ほんの少しでイイ。勇気と自信を持つのだ」)
醤油:不覚にも、グッと来てしまった。
ミシ:僕もです。
(OP)
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(喫茶店でデートする2人であったが、中多さんには密かな野望があった。それは、完食すると末永くラブラブでありつづけられると噂される「スペシャルバナナパフェ」に挑むことであった)
醤油:うおぉぉぉぉぉっ! 聖杯や! 遂に聖杯が出てきた!
ミシ:聖杯、サングリアルと云うのは、救世主が最後の晩餐の際、それから飲んだと言われる盃ですね。救世主はその盃をヨセフに与え、ヨセフはそれをロンギヌスの槍と共に保管し守護します。しかし、あるとき子孫の一人が、神聖な義務を忘れ、一人の巡礼女がひざまずくときに計らずもはだけた衣服を、守護の役目にあるまじき目で眺めてしまう。すると聖なる槍はその子孫の頭上に落ちかかって癒えること無き傷を負わせ罪を罰し、サングリアルの盃は人の目からその姿を隠してしまった。
醤油:のちに偉大な預言者であり魔術師であるマーリンが、奇蹟をもたらすサングリアルを再び発見すべきであるとアーサー王に伝え、その捜索を円卓の騎士たちは命じられます。件のガラハドは、聖杯を発見した三人の騎士のうちの一人ですね。幾多の困難を乗り越え、遂に聖杯を発見したガラハドはその最期、聖地に至り、最も穢れ無き騎士として天に召されることになりました。
QP:もはや問答無用で、純一はガラハドなのですね。
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(創設祭当日。梅原はマグロを象ったヌイグルミ「トロ子」とベストカップルコンテストに出ようとする)
醤油:もう道化を演じさせるのは勘弁してやってくれ。可哀想でしょう。
QP:本ルートでの梅原の立ち位置は、ガウェインです。アーサー王が謎の答えを得るため、担保として醜女の良人に差し出されたガウェインですが、覚悟をもって臨んだものの、やはり夜になると婦人の年齢・容姿の醜さ・身分の低さへの嫌悪を隠しきれなかった。そのことを正直に婦人に告白すると、驚くべきことに、醜かったはずの婦人は見目麗しき美女となった。実は、婦人は悪の魔術師に姿を変えられてたんですね。その呪詛を解くには、2つの条件があった。一つは若く優秀な騎士を伴侶に迎えること。これが成就したために、呪詛の半分が解かれ、婦人は一昼夜の半分のみ本来の美貌を保てるようになります。婦人はガウェインに問う。自分は昼と夜、どちらをもとの姿で過ごすべきかと。ガウェインは婦人の最上の美を独占するため、一度は「夜」と答えますが、「皆の前で美しくふるまえること」で得られる婦人の幸福を慮り、譲歩します。そしてこれこそが、もう一つの条件であった。ガウェインのために呪詛は完全に解かれ、婦人は常に美しく在ることが許されます。
ミシ:とすると、このウメハラは、頑なに「夜」と答え譲らなかったガウェインですか。トロ子は一昼夜のうちの半分しか魔法が解かれず、本来の美しさを衆目(象徴的な意味合での「昼」)に晒すことが出来なかった。
醤油:その解釈は、あんまりにも悲惨ではありませんか。
QP:しかし、揶揄されるのが目に見えながら、なおコンテストに出場せんとする背景には、それなりの事情があって然るべきだと思うのです。選択を誤った騎士の、贖罪ですね。
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(梅原「トロ子、今夜は2人で解体ショーだ」)
醤油:うわあああああああああああああああああああああああああああああ! こんなん酷すぎる……。
QP:痛痛しくて直視できません。
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(司会の綾辻さん「まるで結婚式のようです」)
ミシ:ああ、本当におとぎ話で語られる結婚式のようだ。
醤油:驚嘆すべきはウメハラとの落差ですよ。
QP:リアルガチやな。こんなん他の生徒ヒきますよ。
ミシ:ちなみに、奥ゆかしさから、衣装は母親によるオーダーメイドと偽ってますが、全て中多さん本人による手作りです。
QP:リ、リアルガチやな……。
醤油:ちょっと重すぎ。
ミシ:醤油君には重すぎるかもしれませんが、再起した純一君には背負うことが出来るんです。
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(純一の好きなところを質問される中多さん。「た、頼りになる教官なところです……」)
ミシ:(うんうん)
QP:声も出さず狂ったように頷くの、キモチワルイですよ。
醤油:放って置きましょう。もう駄目です。堕ちてから45分たちましたから。
ミシ:カムパネルラーッ!
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(森島・塚原ペアに敗れ優勝を逃すが、見事2位にかがやき、賞品の映画館個室シートチケットを授与される)
ミシ:実質1位ですよ。1位。やったー!
醤油:わかりましたって。少し落ちつきましょう。
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(Bパート。翌日、クリスマス。早速貰ったチケットを使って映画館でデートをする。緊張した純一はトイレへ逃げ込むが、変な外国人に応援される)
ミシ:What’s up boy? Are you falling in love with the mirror?
醤油:Don’t worry about the failure of the love.
QP:So, good luck.
ミシ:この男性は、まあこれから2人が観る映画「愛の行方 愛の行く先…」の監督なんですが、自然を超越したちからで英雄の必要とする魔除けやアドバイスを与える運命の案内人ですね。アーサー王伝説で言うところ、マーリンのポジションです。
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(トイレから戻った純一を迎えたのは、コートをぬぎ、純一の好みに合わせたドレスに身を包んだ中多さんであった)
ミシ:小悪魔的ですね。よく似合ってます。
醤・QP:……。
(行儀良く映画鑑賞をする2人。やがてエンドロールが流れる)
(中多「監督さんの女優さんに対する感情が、スクリーンに溢れてます。愛情に満ちてますね」)
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(純一「僕のほうがキレイに撮れるさ。僕は監督だ、紗江ちゃん。君は今から、僕の撮るフィルムの主演女優だ」)
QP:もう無茶苦茶ですね。
ミシ:2人のきもちが通じ合ってれば、その関係性は多彩に変容し、なにものにでもなれる。こうしたアクロバティックな関係の再定義は、中多さんの「土」の性質、「盤石・不変」が基礎にあるからこそ為せる業なんですね。
醤油:ここで六大を持ち出してくるんですね。
QP:奔放ですねぇ……。
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(ふざけてるとソファのリクライニングが倒れ、純一は中多さんを押し倒してしまう)
(中多「先輩。本当に、色色とありがとうございました。先輩とこうして過ごせて、すごく嬉しいです」
(純一「今日は、ちゃんと言うよ。紗江ちゃんが好きだ。大好きなんだ!」)
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ミシ:ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
醤油:ちゃんと言えましたね。
QP:う~ん。
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(中多「先輩、わたし幸せです」)
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(中多「わたし達カップルに見えるでしょうか?」)
ミ・QP:見える、見える。
(純一「うん、見えるよ。だって僕達、本当に恋人同士なんだから」)
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(ナレ「失恋のトラウマを抱え、奥手で臆病でチキンであった少年と、極度に内気な少女の恋の物語はこれで終わりである。まだようやく一歩を踏み出したばかりの2人が、この先ずっとラブラブなままでいられるよう、心からねがおう」)
ミシ:うんうん。神聖で幻想的なラストだ。まさしく英雄譚です。
醤油:しかし後日、カメラ片手に怪しげなフィルムを撮る純一の姿が……。
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QP:は? 台無しですよ、これ。フルマラソンを走り終えた後に、お湯ぶっかけられた心境や。
ミシ:違うんですよ。最後、冒険を終えた英雄は、未知の領域で獲得した宝を携え、もとの世界・社会へと帰還しなくてはなりません。これはその、平穏な日常の描写ですよ。
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(中多「先輩、これからもずーっと、わたしのことを一番可愛く撮ってくださいね?」)
(fin)
ミシ:イヤぁ、秀逸でしたね~。うん? どうしたんですか、お2人とも黙りこくって。
醤・QP:…………。
ミシ:ふん。異教徒には何を言っても無駄か。次は、……あちゃぁ、七咲編ですか。まあ、イイでしょう。どれ、再生ボタンを押して。ポチッとな。

【12/23】七咲逢編につづく。

【12/22】中多紗江編③

中多紗江編 第3章「ヘンカク」

醤油:「変革」ですよ!
ミシ:もうね、僕達の大好きな言葉!
QP:え。あの厳しすぎる導入から大逆転があるんですか? 否、そのようなことが許されてイイ筈が……。
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(あさ。普段のように純一を起こしに行く美也であったが、押し入れの中に兄の姿はなかった)
醤油:うわあああああああああああああああああああああああああああああ!
ミシ:中多さんが連れ出してくれたんですよ。教え子と同じ目標へ向かって進む一連のトックンが、純一の生活に瑞瑞しさと充実感を与えてくれたんです。
QP:しかし、これ未だ純一のトラウマは解消されてませんよね?
ミシ:そう慌てなさんな。少年と少女の紡ぎ出す奇蹟のサクセスストーリーは、ここからが本番です。2人の躍進から目が離せませんよ。
(OP)
(昼。テラス。純一「あのさ、妹じゃ嫌ですってどう云う意味なんだろう?」)
(梅原「はぁ!? そんなことも分からねーのか?」)
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(森島「妹じゃ駄目ってことは、つまりお姉さんになりたいってことよ」)
ミ・醤:あははははははは!
醤油:しかたありませんよね。人ならざる存在ですから、恋する人間の心理なんぞ理解できなくて当然です。それが為されるの森島ルートでのみです。
ミシ:しっかし、ユーモアあるなぁ。
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(同時刻。美也は中多さんに「ミス・サンタコンテスト」への出場を提案するが、拒む。しかし「ベストカップルコンテスト」には関心を示す)
ミシ:この中多さんが首を左右にふるシーン。何度くりかえし視聴したことか。
QP:知らん間に正座して観てるのやめーや。
醤油:自然と姿勢が正されるのでしょう。大目に見ましょう。
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(満をじして教え子をバイトの面接に送り出す教官。大きくなった中多さんは、純一にこれまでのお礼と感謝を伝え、最後の敬礼をする)
QP:ようやくやってきましたね。審判のときが。あまりにも長かった……。
醤油:結果は?
ミシ:当然、合格。一人立ちの瞬間です。
(中多「面接に合格できたのは、先輩の特訓のお蔭です。先輩に色色はじめての体験をさせて貰って、それが合格に繋がったんです」ナレ「少女の言葉を聞き、少年の脳裏に浮かんだ特訓の数数は、少年にとってもはじめての体験ばかりであった」)
ミシ:2人で沢山の「はじめて」と向き合って、苦楽を共有し、それが見事に結実した。教官と教え子。二人三脚でここまで歩んできたんです。
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(中多「先輩、わたし、まだ卒業したくないです。本当に大変なのは、これからだと思うんです。ちゃんとアルバイトのお仕事できるかどうか、やっぱり不安です。まだまだ色色とアドバイス、してくれたらなって。駄目、ですか? ずっとわたしの教官でいてください」)
ミシ:教官と訓練生の関係はつづきます。しかし、その内実はこれまでと若干異なる。
醤油:中多の側から関係の継続を頼んでますからね。そこに当人の確固たる意志が介在してます。
(Bパート。ナレ「少女がアルバイトにも少しずつ慣れてきたある日のこと。少年は妹や友達を伴って、少女のアルバイト先へと足を運んだのであった」)
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醤油:ちゃんと仕事できてますね。エライっ。
ミシ:ああ、可愛ええ~。
(純一は不注意からコップを倒してしまう)
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ミシ:ほら。教官が失態をおかしても、すかさずフォロー出来てますよ。それに、この天使のようなほほ笑み。癒されますね。
QP:あきらかに意図的なミスですよ、これは。
醤油:教え子の進歩のほどを見極めてるんですね。
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バイト先の常連に貰ったチケットで、純一を遊園地に誘う中多さん)
醤油:え。その常連とは行かず、純一と行くんですか? 可哀想。
ミシ:女性や年配の常連さんかもしれませんよ。
QP:常連なんて存在しませんよ。純一を誘うための方便です。
醤油:なるほど。金欠の純一に金銭的な負担を掛けぬための配慮ですね。
ミシ:優しすぎますね。
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(メリーゴーランドに乗る2人)
醤油:完全に姫と騎士の構図ですね。
(中多「メリーゴーランドって、お姫様になれたような感覚になれるんです」)
QP:自分から口にしちゃうのか。
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(ヒーローショーにはしゃぐ中多さん。中多「そう言えば、今回のシリーズでは、イナゴマスクが13にもいるんですよね」)
ミシ:そう、ヒーローに憧れてるんですね!
醤油:ん? 13人のイナゴマスク? 13人……、あ、円卓の騎士か!
ミ・QP:!?
醤油:そうだ! 確信を得ました! やはり、これはアーサー王伝説をモチーフとしてるんです。ただし、純一はアーサー王としてではなく、マーリンに呪われた13番目の席に恐れず座り、12番目の騎士の座を獲得したランスロットの息子、ガラハドとして描かれる!
ミシ:うおぉぉぉぉぉっ。たしかに、ガラハドならこの先の展開にも符合する! 純一君のトラウマは、マーリンに掛けられた詛呪やったんや。そして、打克つことで真の騎士になる。
QP:俄然面白くなってきましたね。となると、梅原君は腕萎えのカラドク辺りやろうか。否、ガウェインって可能性もあるな。
ミシ:ええ、QP先生。これは大発見ですよ! 醤油君はスゴイ! 並外れた洞察や!
醤油:照れます。
QP:心なしか、中多さんの表情も嬉しそうになってますね。僕らの発見を祝福するかのようだ。
醤油:ヒーローショーで中多さんが怪人に攫われるトンデモ展開なんてどうでも良かったんですね。
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(ぷぷぷ、面白すぎるよ中多さん)
ミシ:ええ、些事ですよ。些事。
(恥を忍び、クリスマスに催される創設祭のベストカップルコンテストに誘う中多さん)
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(中多「中多じゃなくて、紗江って呼んで下さい」)
ミシ:純一は、中多さんの懇願を全て承諾します。一見順調ともとれますが、しかし、ここから例のトラウマの片鱗が影を見せはじめます。積極的に距離を詰めようとする中多さんに対し、その行動を拒まぬにしろ、一歩下がった位置に留まろうとするんですね。
醤油:目の前の少女へ抱く好意に関し、自覚的になるのを恐れて間が空くシーンが多く見られましたね。
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(並んで帰路につく2人)
QP:ここも、並んで歩んでるように見えますけど、実際は中多側が一歩先を歩く。2人の関係性の発展の「足をひっ張ってる」のは、まさしく純一の側なんですね。第2話とまるっきり立場が逆転しております。
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(先ほど言出そうとして出来なかった中多さんの意図を察し、バス停で手を繋ぐ2人。ナレ「2人の手が、遂に繋がれた瞬間。2人の恋のメリーゴーランドが、ゆっくりと動き出したのであった」)
QP:ここも、あくまで中多からの要請に純一が応える流れなんですね。遊園地以降のアプローチは、全部が全部中多さんからです。
ミシ:しかし、現代の英雄が最後に手にするのは、異形のものを滅ぼすための剣ではなく、愛すべき人の手です。剣は姫への忠誠として、むねに秘めておく覚悟なんですよ。
醤油:最後。しっかりと手を繋ぐ画が、トラウマの解消を暗示してるんですね。
(ED)

【12/22】中多紗江編②

中多紗江編 第2章「トックン」

QP:2話です。
(ナレ「橘純一と中多紗江の、運命の歯車が動き出してから3週間が経った」)
醤油:運命の歯車は本当にあったんですか?
ミシ:醤油君は薫編のときはあんなにロマンチストやったのに、またそんなことを言う。
醤油:1話の最後で「運命の歯車が動き始めるのか否か」と〆ておきながら、2話冒頭では既に動き始めた了解となってる。さすがに心が追っつきませんよ。
ミシ:それには正直、僕も違和感を感じてました。f:id:mantropy:20161222175248p:plain
(Lesson3:自動販売機相手に会話の練習をする中多さん。そのコミュニケーション能力は合格点に到達したと言っても差し支えなかった)
QP:狂ってますよ……。
ミシ:中多さんは無機ぶつにも魂を認めてるんです。判るでしょう? アニミズムですよ、アニミズム! お姫様は精霊と会話が出来るんだっ!
醤油:痘痕も靨のような話は止めろ!
ミシ:優しさですよ、優しさ! 花も摘めぬほどの慈悲を有し、無自覚に人を傷つけてしまうことを恐れた結果、ひっ込み思案になってしまったんです。これは多少図図しくなっても大丈夫なのだと実感を得るためのレッスンですよ。
QP:どうせまた「グラマラスボディ」とか宣うんでしょう?
ミシ:荒んでるなぁ。
(ナレ「こうして、少年に背中を押された少女は、食堂のおばさんとの会話と言う、未知なる領域に足を踏み入れることになるのであった」)
ミシ:未知の領域を進むぞー!
(OP)
醤油:食堂のおばさんと話すことになった程度でヒキを入れて、OP流しますか?
ミシ:他者からしたら些細なことでも、当事者の2人からしたら大冒険ですよ。
QP:うぅ゛……。
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(Lesson4:食堂のおばさんに注文を頼もうとする中多さんであったが、失敗して退散してしまう。不甲斐なく戻ってきた中多さんに、純一は「あそこではたらくのは人間ではなく、おばさん型自動販売機だ」とアドバイスする)
QP:おばさん型自動販売機!?
ミシ:最高にクールなソリューションですね。
醤油:しかし、中多さん無知すぎませんか? カルガモの雛のようなものでしょう。
ミシ:やがて巣立ちますから問題ありません。
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(Lesson5:放課後。2人は理科室で早着替えの特訓を行う)
QP:は? ……もう嫌だよぉ~。だから嫌なんですよ、上下構造はよ!
醤油:上が理不尽な要求をしたところで、下は従うしかありませんからね。
ミシ:しかし、中多さんは「NO」と言えますよ。ですから問題ありません。
醤油:先輩と後輩は露骨な上下関係ですが、教官と訓練生は同意の上での関係ですから。否応無しに盲従してる訳では決してありませんよ。その点は理解できます。しかし、滑稽だ。
ミシ:高度に実践的な訓練ほど、滑稽に映るものです。ナレーションも困惑してるふりをしてるのみで、実際はこれら全てが必要不可欠なプロセスであることを理解してます。意地悪ですよね。
醤油:設定が杜撰で御まま事のようですけど、中多はこうした遊びを子どもの頃に体験できなかったんでしょうね。ゆえに多少逸脱した行為であっても許容し、期待に応えんとする。
QP:無知ゆえの危うさを感じます。
ミシ:そうすると、純一の手綱のにぎり方が一層重要となってくる。純一君もまた試練の中にある。無敵の力量・勇壮さ・正義・長上に対する忠誠・同輩への礼節・弱者への憐憫。あらゆる側面から、かれの中に眠る英雄的資質が試されてるのです。
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(体操服の次は水着への早着替えを試みるが、足を滑らせて転倒。押し倒された教官は、訓練生のむねを揉んでしまう。その光景を目撃してしまう美也。Lesson5失敗)
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醤油:薫編のへそなめ然り、ここでも美也は再び兄の痴態を目撃してしまう。災難ですね。
QP:もう嫌だぁ。たすけてくれよぉ……。
ミシ:ここにも悩める妹が一人。
醤油:そのネタはもうやったでしょう?
QP:この話、中多が不在やねん。全て純一が主導して、中多は純一の玩具となり下がってる。中多はどこに行ったんやぁ~?
ミシ:そんなことは全くありませんが、訓練の成果が花開く第3話までの辛抱ですよ。
醤油:踏ん張りましょう。
ミシ:約束されたカタルシスが僕らを待ってます。
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(Bパート。課外トックンの場所は一風変わった温泉・ドクターフィッシュであった。Lessonn6:足のくすぐったさに耐えながらバイトの模擬面接を行う試みであったが、悶える中多さんはそれどころではなかった)
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(中多「駄目っ。くすぐった……っ、赦してくださーぃ、あぁっ」)
醤油:なにやってるんですか? なにが「赦してくださーぃ」なんですか?
ミシ:戒律を犯す修道女のようですね。淫靡です。
QP:おぱ、お、オッパイが……もう嫌だよぉ……。
醤油:僕達は一体なにを観させられてるんですか? AVインタビューですか?
ミシ:コラッ!
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(官能的な光景に忘我しそうになる純一。そのとき、岩屋の奥から突然現れた光る目の山椒魚が、中多さんを呑み込んでしまうのだった)
醤油:竜に攫われる女性ですね。
ミシ:西洋の英雄伝説では往往にしてドラゴンは姫を幽閉しており、水中にひそむ。件の話では温泉ですね。英雄は、この竜を殺して姫と結ばれるのが定型です。ユングは、このドラゴンを母親の元型(グレートマザー)の影と認め、男児が母親の支配に打克ち自らの意志で選んだ妻と結ばれる話であるとします。しかし、ここではむしろ、純一が性欲に呑まれ、愛人を守護する責務を放棄せんとした瞬間、純一の英雄性が発揮される。己の内に眠る下賤な欲望が恐ろしげな竜の姿をとって、純一はこれを、姫の安全を脅かす敵として克己する決意を固めるのです。
QP:都合が悪くなると純一を失神させ、強制的にブレーキを落とすの、卑怯ではありませんか?
ミシ:己の精神世界にひそむ敵と戦ってるんです。おちおち起きてられんでしょう。
醤油:外界ではなく、内的世界に鎮座する敵である点が洒落てますね。倒した竜の遺体は、自身の内面に残留します。すなわち、英雄の中に見出されながらも拒絶されてしまった真逆の性質も、ゆくゆくは統合され、勇者が奮闘するための血肉となる。
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(帰りのバスの中。中多さんは更なるトックンを教官にせがむ。その真意を、純一は未だ知らなかった。橘家で補習「ぬくぬく長者ゲーム」が開催される)
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醤油:ゲームに実装されたオマケ「ぬくぬく麻雀」を想起させますね。
ミシ:あれ、梨穂子の前衛的な単騎待ちが強すぎるんですよね。桜井の名字は伊達じゃありません。
QP:よく分かりませんが、おそらく、どこぞの雀鬼さんは無関係ですよ。
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(案の定、再び敗北を喫する純一。ナレ「やはりこの手のボードゲームは、現実とリンクしてるようだ」)
醤油:新人小説家賞で大賞を受賞して、小説家デビュー。処女作が大ベストセラーで印税が入る。その印税で個人の出版社を設立。中多は、やはり豪の者ですね。
QP:それに較べ純一は、悲惨ですね。投資したゲーム会社のゲームが無事完成。なぜかZ指定を受けて子供が買えず、投資は大失敗。
ミシ:ここでもまた「失敗」がキーワードとなります。純一の「投資には失敗したがゲーム自体は完成させ、漢のロマンは貫くことが出来た」と言う言葉は「冒険に召命され、愛人への忠義・騎士道精神を貫き通すことが出来た」を意味します。
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(橘家に泊まることになった中多さんは、風呂上りに美也のパジャマを借りる。純一はその姿を褒めるが、中多さんは「妹では嫌です」と口にする。ナレ「2人の運命の歯車は、大きく動き出そうとしてるのであった」)
ミシ:可愛e~!
醤油:自分の感情をしっかり口に出来るようになりましたね。
ミシ:訓練の賜ものですね。
QP:次、行きましょう。早く。

【12/22】裏アドベントカレンダー2日目。中多紗江編①

中多紗江編 第1章「コウハイ」

ミシ:皆さんお待ちかね、「魔性のふかふか」中多紗江編です。
(ナレ「少年の名前は橘純一。17才の高校2年生である。2年前のクリスマスに手痛い失恋を経験し、その古傷をひき摺ってるせいで、恋に臆病になっていた。と言えば聞こえはイイが、それ以前に果敢に恋に挑むタイプではないし、弱腰と言うか、もっと言えば失恋を言訳にする――」)
醤油:冒頭から中田譲二さんのナレーションですね。ダンディな声でハッとさせられます。
ミシ:ああ、ヒロインと名字が同じですね。実は、本編で実在のみ仄めかされる父親役であったりもするんでしょうか。そうであるなら、純一に対して辛辣な批評を口にするのも道理です。娘の幸福を望みながら、その恋人には厳しく当たってしまう父性の二律背反ですね。
QP:ただの偶然ですからね。……偶然ですよね?
醤油:そもそも漢字が違うでしょう。
(純一「あの、その位にして置いてくれない?」)
(ナレ「とにかく、この少年が本作の主人公である」)
ミシ:ほら、ナレーションにツッコミ入れましたよ。純一君には天上の声、純粋理性の命令が聞こえるんです。中多紗江編は、2年前の失恋で塞ぎ込み、うだつの上がらぬ詰まらん男になり下がってしまった我らのヒーローが、一連の神託に導かれ、再び立ち上がる英雄譚を模してるんです。
醤油:まあまあ、順を追って観て行きましょうよ。中多さんが好きだからって、さすがにフライングしすぎですよ。QP君が困惑しちゃってます。
QP:えぅ?
(純一は黒塗りの車から下りて来た転校生を目撃する。純一「可愛e娘だなぁ。む、ムネが、スゴイっ」)
(しかし、交流はなく、ナレ「少年と少女の運命の出逢、にはならなかった」)
ミシ:リッチで巨乳。中多さんは恵まれた側の人間なんですよね。どうです? まさしく童話で語られるお姫様のようでしょう?
QP:中多さんの、六大における立ち位置は「地」なんですよね。一見すると西洋的な「豊穣」のイメージが先行しますが、密教で問題となるのは「盤石・不変」の性質。当て嵌まってますか?
醤油:金銭的には盤石ですよね。
ミシ:Bust Sizeもね。
QP:そう言う話をしてるんじゃねぇんだよ。
ミシ:冗談はさておき、盤石や不変と言った性質はこのあと、2人の関係性、特に中多さんから純一への絶対的な信頼・好意に見出せますよ。
醤油:余談ですが、車で登校は『キミキス』の祇条さんを想起しますね。あれも騎士の話でした。
ミシ:祇条さんが主人公のためにピアノを演奏してくれるんですよね。「騎士(ナイト)あなたを想って作った曲です」と言って。
醤油:能登さんの声も素晴らしかったですよね。
QP:二言目には声優の話をしやがる。
ミ・醤:大事な要素ですから。
QP:ところで、夏から話が出発するヒロインは、中多さん一人ですか?
ミシ:そうです。しかし、2人の邂逅がアバンであるかと言うとそうでは無く、この日、中多さんは純一の存在を認めてすらありません。
QP:それでは、件のシーンは、なにを目的として挿入されたのです?
ミシ:純一が「声を聞く」んですよ。一大事でしょう。観る者に、なにやら爽やかな変革を予感させる。潜在的エネルギーの高まりを感じます。それとはべつに、当日に純一が中多さんと接触したところで、なにも始まらんでしょう。
醤油:中多さんが、仲介者・美也と親密になるまでの待機時間が不可欠なんですね。
ミシ:然り。中多編では、2人が知り合って恋仲になって行く段階が、一つ一つ堅実に、丁寧に描き出される。
QP:謳うなぁ。
(OP)
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(純一は購買に向かう途中、森島先輩と衝突し、財布を落とす。それを拾う中多さんであったが、当の本人は紛失に感づけず、走って行ってしまう)
QP:この財布の形状、露骨ですね。
ミシ:あきらかに女性器を模してます。そうとしか思えん。
醤油:しかし、あくまでこれは「たらこ」財布なんですよ。このあと購買で、弁解するかのように明言されてます。
QP:なんや。案外スケベなんやな、ミシェル。
ミシ:もう何が真実で何が嘘なのやら……。
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(純一に声を掛けようと試む中多さんであったが、ホワイトボードを運搬する男子生徒に足止めされてしまう)
ミシ:まだ見ぬ王子様を追う中多さんに、まずは一つ目の困難が降りかかります。踏みきりに足止めされて相手を見失ってしまう。メモリーズ・オフを髣髴とさせますね。もっとも、大体は男女逆ですが。
QP:安直と言うか、チープすぎません?
ミシ:ご覧の通り、中多さんは重度の人見知りです。だのに、たとえ財布を拾った義務感や責任感からであっても、見知らぬ男子生徒、ましてや上級生にコンタクトを図ろうとした。
醤油:しかし、その試みは失敗してしまう。
ミシ:フロイトによると、失敗とは偶然の産物ではなく、抑圧された欲望と葛藤の結果であるとされます。そして件のシーンには、2つの失敗が見出せる。一つは言うまでもなく純一が財布を落としたことで、純一と財布を拾う者へ言渡される「冒険の召命・運命が英雄を召喚し、精神の重心を自らが暮らす社会の周辺から未知の領域へと移動させること」を暗示する。二つ目は、その中多さんが突然の壁に阻まれ、財布を持ち主に返還できなかった点。ここで、中多さんには再び2つの選択肢が生じます。一つは踵を返し、拾った財布を棄てるなり教師に渡すなりする。もう一つは、持ち主を追ってあくまで本人に直接渡す。中多さんは思考の末後者を選びとりますが、これは中多さんが自らの意志によって、ホワイトボードで可視化された境界を潜り、宝と危険が等しく隠された運命の領域へ出立したことを意味します。すなわち、失敗とは運命の入口であり、想像を超える苦難や超人的な行為、有り得ぬ喜びが待つシンデレラロードの偉大な一歩を、僕らの中多さんは踏み出したと言うことです。
醤油:ははぁん。中多もまた、純一の抱えるトラウマを払拭させる英雄としての側面を有すために、このような「召命」の描写が挿まれるんですね。
QP:エンジン全開やな、ミシェル。
ミシ:100速で行きます!
QP:阿呆ちゃうか?
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(購買で純一の姿を発見した中多さんは、なんとか財布を渡すことができた。しかし、ひっ込み思案が嵩じてうまく会話することが出来ず、純一から逃亡してしまう)
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(お礼を言うことを出来なかった純一は、一年生である妹の美也に聞き込む。美也「もしかして、ツインテールのこと?」)
ミシ:行方を眩ました中多さんを探す純一は、まるでシンデレラを探す王子のようですね。
醤油:この美也、可憐ですね。
QP:同意です。
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(美也の仲介のお蔭で言葉を交わすことができた2人。ナレ「今度こそ、少年と少女の運命の出逢であった」)
QP:え、本当に運命だったんですか?
醤油:中田譲二のナレーションとミシェル君の弁舌を信じましょう、QP先生。
ミシ:この「boy meets girl!!」と書かれたホワイトボードね。先ほどは単なる障害であった同一のものが、おとぎ話の開幕を響きわたらせる福音に変容してるんですよ。
醤油:先月のボヘ演劇にも似たような演出使ってましたね。もしかして、パクったんですか?
ミシ:事実無根です。
QP:幸せの予感きっと誰かを感じてる~♪
ミ・醤:Fall in Love!
QP:ロマンスの神さまこの人でしょうか~♪
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(ナレ「それから数日後のことである」犬を怖がって帰路を進めぬ中多さん。騎士よろしく、庇う純一)
醤油:再び「犬」ですよ。DOG=GOD。
ミシ:GODと言うよりは、神話の怪ぶつ、アーサー王伝説に出てくる巨人・コーラング辺りでしょうか。若きアーサー王はこの巨人との一騎打ちを制すると、ロウディガン王の娘・ギニヴィアを嫁に迎えます。
醤油:巨大どころか、子犬でしたけどね。
QP:ともかく。森島・薫ルートで純一自身に喩えられた犬が、中多ルートでは乗り越えるべき苦難の一つとして計上されるんですね。
(Bパート。薫のはたらくファミレスに寄る2人。バイトに興味を示す中多さんであったが、面接や接客に不安を覚える。純一は「一緒に練習しようか」と提案する。早速、橘家で美也を巻き込んでの特訓が開始される)
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(純一「美也にはお客さん役でもやって貰うとして、僕は教官をやる! さぁ、呼んでみて」)
(中多「き、教官……」)
QP:また純一君が、偶然目にした本からインスピレーションを得てしまってますよ。滲み出る茶番臭が本当に苦しく感じられます。
醤油:茶番そのものですよ。進むべき道を指し示すかのごとく、毎回都合よく配置されてますね。神に寵愛されてるんでしょう。
QP:ああ、ドイツもコイツも狂ってやがる。
ミシ:中多さんと純一の間で交わされるハイコンテクストなコミュニケ―ションが理解出来ぬからと言って、悪態を吐くのは止しましょうよ。2人にのみ通ずる特有の作法で絆を深めてるんですよ。これって素敵なことでしょう?
QP:中多への対応、甘すぎません? さっきから逐一「さん」付ですし。正直、好きだからって贔屓してるでしょう?
ミシ:僕が擁護せんと、誰も味方にならんから仕方なく矢面に立ってるんですよ。君達こそ、些か狭量ではありませんか? 「アマガミ」ちゃんと楽しめてます?
醤油:ちょっ、2人とも落ちつきましょうよ。友人と美少女ゲームをプレイして、宗教戦争にまで発展するありふれた話ですよ、コレ。笑えませんって。
ミシ:失礼。平静さを失ってました。とにかく観て行きましょう。
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(Lesson1:大きな声を出すために腹式呼吸法を獲得しよう→呼吸を忘れて失神)
醤油:先輩と後輩から、教官と訓練生の関係にステップアップした訳です。そして、はじめての訓練がこちら。訓練と銘打てば、多少の身体的接触も許されます。役得ですね。
ミシ:薫とは異なり、中多さんと純一は関係の定義からはじめるんですよね。したがって、その関係性に伴うべき感情も、訓練をこなす過程であとから芽生えてくる。順序が逆なんです。
QP:ゼロから始めるシンデレラストーリー。本当ですか?
醤油:金も容姿も地位も既にそなえてるのに?
ミシ:精神的な充足を欠くと、どれも無意味に堕しますよ。中多さんは中多さんなりに、これまで恵まれた者ゆえの疎外感を味わってきた筈です。案外、転校してきたのも前の学校で不幸な事件があったからかもしれませんし。安直に他者の内心を量ってはなりませんよ。
QP:しかし、息を吐き出すのを忘れて失神するなんて、やはり狂ってますよ。
醤油:どのような暗喩か考えてみましょう?
ミシ:抱え込むのみではもう、駄目なんですって。
QP:そのままかよ。
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(Lesson2:お盆でコーヒーをサーブしてみよう→コーヒーを溢して火傷)
醤油:もう辞めたら、この仕事?
ミシ:まだ仕事はじめてませんから! 前段階ですから。
QP:首だ、首!
ミシ:狭量な世界だなぁ……。
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(一日の訓練を終え、帰路につく中多さんとそれを見送る橘兄妹。兄を羨ましがる一人っ子の中多さんに、美也が「久しぶりに、おんぶジャンケンをしよう」と提案する)
醤油:育ちの良さから、庶民の遊びは未経験なんですね。
ミシ:純一と共に触れる全てのものが未知で新鮮。一生ものの鮮烈な体験の渦中に、中多さんは在る。純一と言う教官が世界の広さを中多さんに教え、その開かれた遠大な世界に尻込みせず、果敢に挑戦してゆく教え子の懸命な姿に鼓舞されることで、純一もまたひき籠もった押し入れから這出し、再び外の世界を目指すようになるんです。美談ですよ。どうです? 次第に応援したくなってきたでしょう?
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(純一は当然のごとくジャンケンに敗北する。中多さんを背負う純一。グから始まる言葉に迷う中多さんに、純一は「グラマラスボディ」はどうだと提案する)
QP:は?
醤油:純一君は負けることで勝つ人間なんです。
QP:セクハラやぞ。往来でこの言葉を言わせることにどんな意味があるんですか?
ミシ:どこかの部族にありませんか? 禁じられた言葉を口にすることで共犯意識による連帯が生まれ、契りを交わす儀式。それと同じですよ。通常、口に出さぬような呪文を共に唱えることで、教官と教え子の信頼関係を補強してるんです。グラマラスボディ、魔法の呪文。QP先生も、試されてみたらどうですか?
醤油:グ・ラ・マ・ラ・ス・ボ・ディ!
QP:どんなきもちや、醤油君。
醤油:とても惨めなきもちです。
ミシ:あ、あれ? オカシイな……。
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(ナレ「夕暮れの中、背負う少年と背負われる少女。この夏が終わり秋が訪れる頃には、2人の運命の歯車が動き始めるのか否か」)
QP:これもまた、ミシェルの好みそうな止め絵ですね。
ミシ:大好きです。懐古主義を刺激されます。実はED曲も昭和臭がして、大好きなんです。
醤油:それでは、聴きましょうか。
(ED)
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QP:メロディが既にノスタルジックですね。
ミシ:「キテレツ大百科」を想起します。はじめてのチュウ、をね。
醤油:曲名、ブーゲンビリア花言葉ですか。そう言えば、ボヘ演劇にも出てきたような……。
QP:本当にパクってませんか?
ミシ:無意識に寄せてしまった可能性はあります。
QP:無意識ってコワイですねぇ……。
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曼荼羅
醤油:うぉっ、無限増殖したっ。コワイ! 洗脳される!
QP:トンボのきぶんです。指くるくる。
ミシ:ひゃぁ、可愛ええ~。
醤・QP:えっ。

【12/21】やり過ごして生き延びる

こんばんは。今日は中央食堂でカボチャを食べて、オグリビーくんと東山湯で柚子湯に入りました。その後オグリビーくんはつけめ「ん」を食べました。僕は和え麺にしました。今は干し柿をかじっています。あなた、傘を持ってきとるかいの? アマガミ冬至に放映を終えたらしいですね。

最近は寒いので死にたいなぁと思うことが増えています。「人間仮免中つづき」「その「おこだわり」、俺にもくれよ!!(2)」「動物たち」を続けて読んでいたら、迸る生へのエネルギーと生活での多様な執着と日々のおぼろげな感傷とが渾然一体となり、悪酔いしました。人生の幸福とはなんでしょうか。幸福という字は、幸不幸、不運、という連想を誘いませんか。即ち、幸福であることは運がよかったのだ。人生に不満/不安があることは、不幸なこと、運が悪かったのだ。というような。HappyをLuckyの問題にすり替えるような価値観が日本語には暗に含まれているのかもしれない、と思いました。これは貧困を拡大再生産する社会構造から目を背けた体制側の陰謀です。僕は家が裕福でしたから大学まで行けそれどころか3000万の貯金があるので国会議員にもなれるのですが、それでも朝が来なきゃいいのにと思って眠っていますし、別に果たしたい大志もないです。アンラッキーではありませんしアンハッピーでもありません。わーいわーい楽しいな。楽しいな。夢みたいだなこんな暮らしは。悪い夢だといいのにな。

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第75回 ちばてつや賞 ヤング部門 発表 « ヤングマガジン公式サイト|無料試し読みと作品情報満載!

( 読みましたか? )

この作品の素晴らしいところは、「大切なものがない」という感傷を漫画に落とし込んでいるところだと思います。田岡さんは、ふと頭によぎった妄想に抗うことが出来ません。それは、妄想に従う快感をかけた天秤の向こうの皿に、何も載っていないからです。食事をひっくり返せば後で片付けなければならない。万引きをすれば逮捕されてしまうかもしれない。ついていけばエッチなことを要求されるかもしれない。こうした可能性は、彼女にとってどうでもいいことであり、眼前の快感の方が優先されてしまいます。ちば先生は、この歪みを「家庭の崩壊」のきっかけによるものだ、と評しておられますが、私は「家庭の崩壊」自体は単に彼女が何も持っていないことを記号的に示すだけの一文だと思っています。

ちば先生の選評
「家庭の崩壊」が少女の人格、物の価値観、人を見る眼、それらの全てを大きく歪ませ、“自暴自棄”になってゆく生き様を淡々と描いている。その言動は、時に唐突で異常だが、抑えが効かない日常は虚しくリアルだ。光る画力、演出力を更に磨いて、希望の持てない現代人の「ビョーキ」を描いてほしい。

田岡さんは何にも執着しません。作ったご飯にも、貞操にも、社会的体面にも、職にも。しかし、それは悟りの境地に至って欲望を捨てきったからではありません。ただ、どれも大切にしたいと思えないからなのです。だから彼女は、なんとなく仕事も辞めるし、なんとなく赤井くんを受け入れます。

僕がとても悲しくなるのはそれからです。
彼の思いつきに流された同棲生活の結果にあるのはなんでしょうか?

幸福です。
あからさまに幸福然として描かれる胡散臭い幸福がそこにはあります。食事、セックス、晴れた日の休日に二人でするバドミントン、一緒に過ごした写真が打ち付けられたコルクボード。彼の帰りを待ちながら見るどうでもいいテレビ番組。

守るべきものがないことは彼女の信念ではありません。
ただ、何もなかったから、思いつきの衝動に抗うだけの理由さえ持っていなかったから、散発的な破滅行動に走っていただけだったんです。彼との生活は、彼女にとって大切なものとなったのです。254pの笑顔。これを見て、彼らの生活が欺瞞だと切り捨てる権利を我々は持っているのでしょうか?

また、彼女との生活は、彼にとっても救いでした。万引き女子高生を脅迫レイプしていた男が、AVを借りることで性欲を処理しようとする。たとえ他者から異常性癖者に見えようとも、彼にとっては現実と折り合いをつける大きな一歩じゃないですか。めっちゃ良いシーンやんけ。これだけでも何度か思い返してしまうわ。

しかし、ストーリーは勧善懲悪の宇宙法則から逃れられず、彼女は再び彼を失い、衝動抑制機構は消失します。子供が作った砂場の城を蹴り飛ばし、包丁を手に取り外を眺めます。蝉が鳴いてます。個人撮影レイプを見ながら彼女の口から滴ったスイカの汁が僕の頭にフラッシュバックして、物語は終わります。

結局元に戻ってるじゃないか、この物語に何の意味もなかったじゃないかと言う向きがあります。僕は違うと思います。無気力や無感動や不感症は、誤魔化して生きていける。他愛もない生活が、それをやり過ごさせてくれる。これはある種の救いだと思います。それを逃避だと言うのなら、生きる理由なんてどこにあるんでしょうか? 生きる理由が具体的な形を取れば、人生の中で失われることだってあるでしょう。でもそれは確かにあったし、無くなってしまったからといってそれが嘘だったなんて思いたくない。

「今はもうない」ことは、「かつて確かにあった」こと、「またいつか手にできるかもしれない」ことの裏返しです。物語世界は続きます。作中で描かれる時間は作者の恣意的な枠組みに過ぎません。僕は田岡さんがその生命や生活を致命的に投げ出してしまわないことを祈ります。それはそのまま自身への期待でもあります。

生活の些細な煩悩が錨となって、人生に縛り付け続けていてほしい。そう思って、ろくに出来もしないのに、干し柿を作ったり、梅酒を漬けたりして、先に希望を作っています。最近、どうして季節ごとのイベントがこんなに多いのか分かってきました。細切れにしなければ人生はあまりに長すぎる。死にたいなんて言わずに明日も頑張って生きていこう! 自分以外の人・ものを大切にしたい。 黒鷺でした。

こんな記事しか書けず、「お前結局自分のことしか好きじゃねぇんだろォ!?」と怒られてしまう。悲しい。

「君の名は。」と折り合いをつけた話・結/光

遅れました、ユーカリです。

君の名は。」と折り合いをつける話の第3弾です。

折り合いをつけたことで怒りの純度が下がり、更新が遅くなりました。めっちゃ長いのでお時間があるときに読んでください。

前回に引き続いて、プロオタクのtrickenさんから受けたレクチャーのあれこれをまとめていきたいと思います。
今更ですけどネタバレありますので未見の方はご注意。


前回は『セカイ系』作品の代表格「ひぐらしのなく頃に」を取り上げ、「君の名は。」との知られざる関係を明かしました。(みなさん驚いたことでしょう。)
mantropy.hatenablog.com

セカイ系』の文脈を深く知るゼロ年代の亡霊たちは、前記事の解釈で「新海監督おめでとう!おめでとう!」とエヴァ最終回並みの拍手を送れたのではないでしょうか。

しかし、新海誠に特に思い入れのない人間がこの作品と向き合うには、(当然ですが)もっと作品自体の構造を把握しなくちゃいけません。ヒットを牽引したファンの多くは「君の名は。」を観て「ひぐらし」を想起し「カントク〜」と感動したわけではないからです。

さらに、「君の名は。」が売れすぎているこの状況を強く憎む自分のような人間はまず、「世間の評価」という捉えがたく抽象的なものと「作品」の具体性を一旦分離して、冷静になる必要があります。血走った目は世界を歪んで捉えてしまいます。
このメガヒットに味をしめた業界人たちが、似たようなテイストの作品をこぞって作り出さないか、そんとな国で生きていけるんかね? という不安や焦燥は一旦閉じ込めて考えましょう。いまさらピーチクパーチクいったところで200億の前では吹けば飛びます。

そうしないと、君の名は。はクソ!シンゴジ最高!w」とか、この世界の片隅にが間違いなく今年一番! 君の名なんかよりこっちで感動するべき!」などと、別のヒット作品との不毛な対立争いを短絡的に繰り返してしまうことになります。それは悲しくってやりきれないことです。

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それでは、いよいよ「君の名は。」と折り合いをつけていきましょう。

まず、わたしがイラつく5つのポイントをおさらいします。

⒈脚本の穴がでかすぎて無視できない。(3年すれ違いに無理がありすぎる)

⒉キャラクター造形の端々に新海誠の自己投影、異性への理想が見えて集中できない。(瀧くんの絵描き能力、赤面しながらトイレを済ます三葉ちゃん(in瀧くん)、完璧”っぽい”奥寺先輩)

⒊キャラクターの「成熟」が描かれていない。特に、三葉ちゃんと父親との確執、地元愛の回復を投げっぱなしにしている。311からイマジネーションを受けているなら「消滅する運命にあった地方都市」の救済はもっと丁寧に描写するべきだったのでは。

⒋ストーリーの本筋に関係のないノイジーな描写が多い。削っても差し支えない描写はバンバン消していくべきだと思う。(バイト先のチンピラとか、瀧くんが喧嘩っ早い設定とかいらんだろ)

⒌こんな強度の低い作品が国内歴代興収ランキング2位ってマジ???支持してる奴ら頭湧いてんのか綺麗な絵が見てえならpixivデイリーランキング背景カテゴリでも見とけ

⑤に関してはもう折り合い済みということにして。

①から見ていきましょう。

君の名は。」の忘却性

君の名は。」を観てストーリーにモヤモヤを抱いたみなさん。

おそらく私たちは同じ溝、「君の名は。」最大の違和感に足を引っ掛けてることでしょう。せーの、

「「「なんで3年ズレてることに気づかないの!?」」」

「超常現象に巻き込まれてると気づいた時点で日付を確認して!」
「曜日がズレてることも入れ替わる時に忘れちゃうから気づかないの?」
「入れ替わり先の学校で年月日を記入するタイミングはなかったの?」
iPhoneで日記の記録をつけるんじゃなくて、LINEで双方向通信を試みたら?人生の基本でしょう?」
「瀧くん(in三葉)が初日にグーグルマップを立ち上げてたら半分の尺で済んだんじゃない?」
「瀧くん(in三葉)がニュースでティアマト彗星って聞いたらさすがに「アレっ」と思うでしょ!」
「三葉ちゃんは瀧くんに会いに行った時に「なんか幼い」とか感じなかったの?中学生瀧くんを眺める視点は瀧主観から三葉客観に移ってるといっても成長期の3年だよ?恋は盲目なの?」
「郷愁展の飛騨コーナーでは彗星について何も触れてなかったの?」
「なんで「飛騨 山岳」で画像検索した時に彗星災害の写真が一枚もヒットしないの?天安◯事件なの?」
「瀧くんは「飛騨 山岳」ではググれるのになんで「宮水神社」でググらず絵を描き始めるの?記憶のしまい方が視覚情報に超特化してるの?だから彗星のことは全然覚えてないけど記憶だけであんなに絵がかけるの?サヴァンか?」

バスタ新宿が存在する世界に住む人間に「ググれよ」の一言をかけることができないなんて。気が狂いそうだ。

この「3年すれ違いマジック」には大勢の観客が気を狂わされたことでしょう。「無理がある」と。
おそらく製作現場からも似たような指摘が山ほどあったことでしょう。「無理がある」と。
どうしたってどこかで気づくだろう、と。

それでも結局、無理を承知で瀧くんは、3年のズレをことごとく無視し、糸守町まで足を運ぶのです。
そこまで行きやっと、三葉ちゃんは3年前の彗星災害で消滅した町の女の子だったと悟る。
絶句して立ちすくむ瀧くんを見て観客は一緒に絶句ができます。「どこかで気づけよ」(瀧くんが書いてた日記のデータまで一緒に消えるのかよ)


製作陣はどんな意図をもって、瀧くんに思い出させなかったのか。
巨大な違和感を抱えた観客たちはいろいろ考えを巡らせて、辿り着くんですよね。

まぁこれはどう考えても「3・11とわたしたち」の関係を描こうとしているんだろう。

「たった3年で3・11は忘れない」という自信はみんなあると思います。
でもこれが、遠い地域の台風や火事や交通事故や殺人事件やテロだったら。自分や家族、恋人に関係のない話だったら。
被害の多寡は悲劇の指数ではありません。

瀧くんの忘却レベルが高すぎるのは、それを笑う我々に問いかけてるんです。
「じゃあ、あなたは全部覚えてるのか」と。(それでもさすがに糸守の悲劇は忘れないと思う)

過去に起きた悲しい事件や災害のことを、当事者ではなかった人間たちはいつしか忘れてしまう。
うやむやに忘れてそれぞれの日常に戻っていく。
忘れることは悪いことではなく、生きていく上であたりまえのことなんだけど、
そのできごとがなかったことになり消えていくのは寂しい。この「忘却性」を作品に昇華させると「エモさ」になります。

瀧くんは糸守のことなんかすっかり忘れたヘラヘラした状態で三葉ちゃんとの入れ替わり生活を終えて
三葉ちゃんに会いたいって動機で飛騨まで行って彗星のこと思い出して
彗星災害の死亡者リストで三葉ちゃんたちの死を確認した後初めて、「あいつの名前が思い出せない」と「忘却」にたいして恐怖を抱く。
そしてついでに思い出す、3年前三葉から組紐を受け取っていたこと。(瀧くん、覚えて、ない?)(「名前は、三葉!」赤い糸が渡され告白&入れ替わり先のマーキング完了&「君の縄」のギャグ回収)(出どころも思い出せない組紐をずっと手首に巻いてるって瀧くんマジで気持ち悪い)

「忘却」への対抗方法として三葉ちゃんは瀧くんに組紐を渡しました。好きな人のことはなかな忘れないですからね。三葉ちゃんとの関わりが「他人事の災害」を「当事者としての災害」に取り替えあの日の「忘却」を阻止する力になる。「あいつ」をわすれてしまうのかどうかのシーソーゲームです。そして必ず最後に愛は勝つ

君の名は。」が「忘却」の様子を過剰に描くのは、「大災害」を忘れさせる”悪魔的”力と「好きな人」を忘れたくない”女神的”力のせめぎ合いを際立たせるための演出であり、整合性はどうあれ、「3年すれ違いマジック」は演出的にはありうるという納得ができました。忘却っぷりがありえないほど、わたしたちへのカウンターとして働くんですね。
(イラだちポイント①折り合い)

(「この世界の片隅に」の鑑賞体験はこの「忘れてしまうこと」VS「忘れたくないこと」の構図に近いと思いました。大きなくくりとしての「戦争の悲劇」は、年を重ねるごとに戦争体験者も減り、社会全体が持つ「記憶」の濃度が薄まっていく。しかし、映画を通して「すずさん」という個人と心理的に近しくなることで「すずさんを忘れたくない(=その時は戦争の悲劇の記憶もセットで付いてくる)」となり、「戦争の悲劇」という「記憶」が薄まるのを阻止しようという力が働くように感じました。)

セカイ系の危うさ

イラだちポイント③(消滅していく都市の救済)に食い込んできます。

「災害」という悲劇に立ち向かわせるために「瀧→災害」ではなく、「瀧→三葉」という個人同士を引き合わせて立ち向かわせるのはわかりました。「忘却」の克服をそこに狙っているから。『セカイ系』らしいアプローチです。

彗星が落ちた後の糸守町を壊しっぱなしにして、町民たちを東京に住まわせる終わり方はかなり最悪だと思います。
町民があの町を選んで住んでいた気持ちをないがしろにし、自分たちの町が一瞬で消えてしまった悲しみとか一切なく、都会への憧れ、地元への鬱屈をこぼしていたさやかとてっしーはかげもなく幸せそうで、三葉ちゃんの涙は瀧くんの喪失感由来だし、ばあちゃんやとうちゃんは2度と出てこんし、宮水神社はどうなるんだ。あの美しい田舎の風景をぶっ壊しておしまい? ふざけんな

君の名は。」はヒットの法則をこれでもかと詰め込み見事大成功を収めました。
しかし、それだけの要素を詰め込んでいながら最も配慮するべき視点が抜けているように思います。
わたしには3・11を利用して金儲けをしたようにしか見えません。悲劇に対して不誠実です。
3・11を意識して作ったことを明言するなら、消滅したまちへの敬意や配慮はもっと細心を払って描くべきです。福島県内の原発周辺地域や、東北沿岸地域では、消滅するかどうかの渦中に置かれている町もあり、現在進行形の切実な問題です。
被災地だけじゃない。日本各地にある過疎地域からすればこの映画には「バカにされっぱなし」です。
「こんな田舎いやや〜」と言わせて、地元への愛着の回復を具体的に描かず、町ぶっ壊して特に郷愁もなく憧れの東京に住ませて終わるのやばくないか。
初めから終わりまでありえないファンタジーなんだ、せめて創作の中では再建に向けて奮闘する町民も描け。どうせ1200年後も同じ方法で彗星回避するんだろ? ふざけんな川村元気

この作品最大の不誠実さに関しては怒髪天です。でも、これは『セカイ系』の様式美でもあり、従来から指摘されている脆弱性でもあるんですって。

大げさに言ってしまえば、世界は主人公の意のままであり、主人公の視界に入らない人間はその存在すら認識されない。主人公と社会とのつながりではなく、当然あるべき社会理念との葛藤や他人との衝突も薄く、個人の感情の赴くままに行動し、しかしそれでも世界は救われてしまう。そこにあるのは自分とその周辺の狭いコミュニティの利益のみであり、時にそれは『独りよがり』になる。

セカイ系とは (セカイケイとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

作中の悲劇は、”運命の二人”を引き立てるための装置であり、ラストのエモさに奉仕するための背景でしかない。過去の評論から『セカイ系』様式はこの”虚飾”を自覚しているそうです。
真後ろで彗星が落っこちてる状況で手のひらに「スキだ」と書く男のために、あの彗星は落ちていて、「これじゃ名前わかんないよ…」と微笑むのはデッドオアアライブの局面では最悪ですが、彗星の落下は壮大なBGMだと思えば最高に気持ちがいいことになります。マジかよ
人物にがんがんに感情移入ができるかどうか、「悲劇の背景化」を気にせず観れるかどうかが『セカイ系』作品全般を楽しめるかどうかに繋がるのかな、と思いました。

で、『セカイ系』様式の特徴とされてるポイントを眺めてみると、個人的に敬遠している、キモオタ作品へ抱いていたイメージがそのまま書いてありました。

・物語は主人公とその周辺のみで展開する。
・主人公は世界の危機などの世界規模の問題に関わることになる。
・主人公は世界の危機に向き合うと同時に日常生活も送っている。
・主人公とヒロインまたは主人公周辺の人物との関係性が世界の危機に直結する。
・主人公は世界の危機の解決とヒロインの命の二択を迫られる。
・主人公の精神世界や心情描写が重視される。

「戦闘を宿命化された美少女(戦闘美少女)と、彼女を見守ることしか出来ない無力な少年」という構図

 セカイ系 - Wikipedia

加えて、自分が気になったポイントは
・役に立つ大人が出てこない。
・役に立つ大人は主人公たちのセカイに介入できない。

自分はほんとにこういうウジウジした男がやれやれいいながら美少女に振り回されてなんだかんだ世界を救っちゃう作品が嫌いで、この手の作品の主人公に憧れて、実生活でやれやれ男を演じてる同級生の男の子が苦手でした。(得意な人間は多分いない)
わたしは「マッドマックス 怒りのデスロード」のように血湧き肉躍るような生き方をする主人公の方を望んでいるのだと思います。

今回の会合ではっきりしたことは、「わたしは『セカイ系』が嫌い」だということでした。長々書いてこれだけです。それまで漠然と持っていた「シンジくんは一人でウジウジしててムカつく」の感情に『セカイ系』という名前がついてとてもすっきりしました。

そして「君の名は。」は『セカイ系』の様式に則って作られていることも、様式の内容と共に理解できました。「悲劇」の扱い方にあーだこーだ文句をつけることは、『セカイ系』様式の作品が従来指摘されてきた弱点の再認識だったようです。

で、今まで『セカイ系』作品を楽しんでいたのはキモオタくらいだったので『セカイ系』様式の脆い部分も、評論の場で指摘はされど、ソレ込みで「イイ」とキモオタたちが築いてきたんだと思います。(90年代からキモオタやってる人たちはもうアラフォーか。)
しかし、「君の名は。」は素晴らしい作品だと感動した人たち(超巨大母数)の中には『セカイ系』が孕む脆弱性を知らずに「最高〜」と言ってる人がたくさんいると思います。

君の名は。」のポップな絵や音楽は最高品質で、ストーリーも娯楽性が高く、新海誠特有の臭みもうまく消してあり、売るために設計されてちゃんと売れている、商業映画としてはこの上なく成功した作品です。しかし、物語の美しさの裏でないがしろにされている部分、『セカイ系』の脆さはもっと指摘されるべきです。その上で評価されたほうが作品のためにも、作品を忌み嫌う人のためにもなると思いました。



東浩紀セカイ系』を定義した人)が東浩紀のポジションとして正しいことを言っている。
※安易に「定義した人」と表しましたが、厳密には「『セカイ系』と呼ばれるようになった作品をかなり早い段階で積極的に評価してきた人」(動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2 (講談社現代新書))くらいの表現が望まれるようです。より「定義した人」の表現に敵う人物は前島賢セカイ系とは何か (星海社文庫))です。

残りの折り合い

セカイ系』様式の観点からもうほとんど折り合ってしまいましたが、蛇足的に消化していきます。

⒊キャラクターの「成熟」が描かれていない。特に、三葉ちゃんと父親との確執地元愛の回復を投げっぱなしにしている

父親との確執

物語前半であんなに作品の核っぽく家庭内の不和を匂わしていながらほとんど解決されずに終わるの逆にすごいですよね。
結論から言えば、父親がハイスペックすぎて、早々に三葉と仲直りすると宮水の謎の説明や危機回避フェーズが一瞬で終わってしまうので、それを避けたようです。ばあちゃんがクソほど役に立たないのも同じです。父親は住民を一瞬で避難させられる行政権を持ち、宮水神社の元神主で神事に詳しく、小説版で詳しく書いてあるそうですが、糸守という土地の謎の力をよく知る研究者でもある、壊れNPCなのです。確かにこの父親をものわかりのいいキャラにして三葉と同居させていたら、異変に気付いた父親がひとりですべて解決してしまいそうです。この「親父強すぎ問題」を解決するため、ただのキーパリングテクニックとして「父親が気難しい設定」を採用したのであって、「親娘の確執」というテーマをやる気はなかったのです。クソか。

・地元愛の回復

「地元への鬱屈」が解消される描写もほっとんどなかったですね。入れ替わり生活では東京への憧れが増すばかりだし。
クレーターの淵で生き返った時点での三葉ちゃんに、強い行動原理として働き得るのは、「瀧くんとまた会いたい」願望くらいしか提示されておらず、田舎のことは嫌いなままで、「大好きな町のみんなを助けたい」とさせる行動原理は三葉ちゃんの中にはほぼないです。”三葉ちゃんの物語”的には「このまま一人山頂にとどまって確実に生き残ろう。それから瀧くんに会いに行こう。」「嫌いな田舎を抜け出すいい口実ができた。」という選択の方が自然です。(危機回避のために走り回ってるときも瀧くんのことで頭がいっぱいです。)

正直、なぜ三葉ちゃんがあそこで住人救出のために奔走する道を選んだのか、三葉ちゃん個人の物語的にどういう行動原理が働いたのかはよくわかりません。(単純にいい子だったから、普通はそうする、というのはどうなんだろう)ここも、ラストシーンにつなげるための神による行動選択だったのでしょう。三葉ちゃんが地元大好き!お父さん今までごめんね!と抱えていた問題を解決して成熟し、瀧くんより一歩先に大人として世界に歩みだしてしまうと、瀧くんとの関係を必要とする切実さがなくなる→ラストシーンのエモさが薄らいでしまいますからね。こんなんで納得してもらえますか。だれか深く理解している人いますか。
(ムカつくポイント③折り合い)

⒉キャラクター造形の端々に新海誠の自己投影、異性への理想が見えて集中できない。(瀧くんの絵描き能力、赤面しながらトイレを済ます三葉ちゃん(in瀧くん)、完璧”っぽい”奥寺先輩)

これはもうしょうがない、完全に好みの問題です。ここを否定すると、新海誠の作家性はどこにもなくなります。しょうがない。「東京のイケメン高校生」と言われてしまえばもう瀧くんをイケメンと思うしかない。妹「今日はおっぱい触っとらんね」姉「(赤面して)おっぱい!?」というファンタジーも真顔で受け止めるしかないんです。奥寺先輩の黒ブラ。タバコとラインストーン。異性への幻想をここまで形にできるのすごいなあ。(ムカつくポイント②折り合い)

⒋ストーリーの本筋に関係のないノイジーな描写が多い。削っても差し支えない描写はバンバン消していくべきだと思う。(バイト先のチンピラとか、瀧くんが喧嘩っ早い設定とかいらんだろ)

映像作品は、アニメーションは特に、画面内に映っているものはすべて作り手が作為的に入れています。だから観客は画面の隅々まで注意深く見て、「この扉の開け閉めをローアングルで描写するのはどういう意図だろう」とか「定点カメラ好きだなぁ」とかいちいち考えながら観ています。この忙しい観客の頭の中に「男子高校生三人で木組みのカフェに行くか?」「このチンピラのくだり丁寧に描いてるけど後々復讐でもするのかな」「アナウンサーの「幸運というべきでしょう」の言い回し不自然じゃない?」「ご神体のある山の麓まで車で送ってもらったけど帰りはどうするつもりだったんだろう」「ここでパンチラする必要あるか」など余計な情報まで流すのは不親切です。ノイズは極力減らし、本当に魅せたいものが一本線になるように提示すべきです。

「3年すれ違いマジック」でさんざんツッコミを入れたのが好例ですが、「君の名は。」には必要のない、不自然な、鑑賞の妨げになる設定セリフ描写省略がめちゃくちゃ多くて鑑賞時本当にきつかったです。じゃがいも警察の傾向がある人には苦しい作品です。鑑賞後、「意味ありげに出ていたあれはほぼなんの意味もなかった」と落胆する部分も多く、「これがいい作品と評価を受けるのか…」と暗澹たる気分でした。

「神は細部に宿る」と言いますが、「君の名は。」のディテールの詰めの甘さは非常にもったいないと思います。多分どのシーンを切り取っても罵倒ができます。つつきたい重箱の隅が多すぎで箔を落としています。iphoneバスタ新宿もある「現代日本」を舞台にするなら、観客がリアリティーに対して違和感を抱きやすくなるリスクをもっと覚悟して詰めて欲しかったです。そんな些事を気にせず作品に没入できた人は本当に羨ましいです。(てっしーのオカルトマニア設定いらなくない?変電所爆発のアイディアと実効性は「土建屋の息子」で説明できるし、三葉に協力する動機は「町や親父へのうっぷん晴らし」で十分説明できるのでは?「さやちんは放送部だから」レベルの説得力しか産まれてないし削ってよかったろ?)こんなことばかり考えている。
(ムカつくポイント④折り合い)

結び

こうして、わたしは「君の名は。」に対してムカついていた部分と折り合いをつけました。
trickenさんとお話しするまでわたしは、「こんなクソみたいな映画は歴史に名を残すべきじゃない。クソを支持するファンもクソ。」と作品周辺をすべて恨み、「SNSでの言及数がヒットの要因に〜」とニュースで聞けば罵倒ツイート内にもなるべく作品名を入れないようにし、「君の名は。いいよね〜」という奴がいれば近づいていってボコボコに殴る、標的も定めず銃をぶっ放す人造兵器のようでした。しかし、『セカイ系』というヒントをもらったことで、「一体どこがクソなのか。マジで擁護できないクソはどこだ」と正しい照準の合わせ方がわかりました。お詫びとして、この記事内では意識して作品名をしつこく書いてます。

これからは「君の名は。はクソ。」ではなく、はっきり「君の名は。は嫌い。」と言えます。年内にこうして折り合えて嬉しいです。

trickenさん、8時間も喋ってくださり、本当にありがとうございました。
ここまで読んでくださった皆さんもありがとうございました。


あのtricken氏も絶賛!!100年先まで残したい珠玉のアニメーション「この世界の片隅に」を観ましょうね。映画もう観た人は原作↓を読んでからもう一度観ましょうね。

Kindleだと3巻セットで1620円!お買い得ぅ!

それでは、お元気で。


闇の勢力(=対立煽り厨)・光の評論(=白のガンダルフ

そもそも、trickenさんがこの会合で狙ったことは「君の名は。はいい作品だよ」と説くことではないんですよね。

君の名は。」を憎むのはいいけど、ヘイトを撒き散らすだけではダークサイドに落ちてしまうよ。
ここで「正しい批評」の仕方を覚えて、敵をつくらず仲間は増やし、建設的な評論をしていこうよ。
世間でいくら売れたかなんて考えてちゃしょうがないよ。自分が好きかどうかで考えるんだよ。

こんな旨の話が多分本質です。

好きな作品の話をする土壌を作りたいなら、嫌いな作品で焼畑農業をしてはいけない
、と言われました。二毛作

至極当たり前の向き合い方ですが、正面から指摘されるまで怒りで我を忘れていました。自分はすっかり闇の者になっとったが!

白のガンダルフになりた〜〜〜〜い!!!!!!!!

なれる

闇の勢力者であってもやりなおせる!
光の評論記事のテンプレートのようなものを教えてもらいました。各ポイントをそれなりに抑えればわかってる風がでますよ!
みんなも実践して光に導かれよう!
もちろん好きな作品を批評する時にもつかえるよ!

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会合当時のメモだよ!
行間を補足していきますが、trickenさんの意図した内容とはズレてるかもしれないです。ふいんきで読んでね。

プロット(物語構造)の説明…作品内で起きた因果に絡む重要な出来事を、俯瞰的に並べていきましょう。ここできちんと物語構造上の因果関係のポイントをまとめられると、作品のファンから「こいつ結構わかってんじゃん」「理解した上で批判してるんだな」と一定の理解がもらえます。むやみに敵を増やすことを防げるんですって。自分でも見落としがわかるしね。

メディア形式の紹介…映画、小説、漫画、音楽、演劇etc どの表現形式の作品なのか。「君の名は。」はアニメ映画ですね。

メディアの技巧形式としてどこが優れているのか、なにが駄目なのか、効果的なテクニックを選びとっているか。アニメ映画形式ならアニメーション、カメラワーク、声優など。ここについては批評者が持つ知識量、着眼点によって語れるものは変わるでしょう。
ex)「彗星が超きれいだった!」「雲がめっちゃインスタグラムっぽかった!」
「それまで書割りとしての背景ばかり描いてきた監督だが、元ジブリスタッフなどいわゆる”動画マン”と呼ばれる役割のひとたちが作画に参加したことで、場面転換がギャルゲー的書割り間の移動だけでなく、キャラクターが地図上を移動していることが実感出来るシーンが生まれた。」など。

様式美…(カー)アクション、(近未来)SF、(火曜)サスペンスなど、どの様式を選択しているかの紹介その様式で重視されているポイントはどこを抑えているかの説明。「君の名は。」なら青春ラブストーリー、現代日本ファンタジー、局所的ディズアスター、リア充セカイ系など要素はいろいろありますね。一番核心にあるとおもう様式をピックアップするのがよいでしょう。
そのジャンルの様式美をどれほど踏襲しているか、そのジャンル内で重要とされているピースの完成度がどこまで高められているのか。そもそも作品のテーマと選ばれた様式の親和性はあるのか。ここもやはり、批評者の様式への理解度でどこまで踏み込むかが違うでしょうね。

新様式の呈示…もし今後「君の名は。」の様式を踏襲するような、それでいて従来の『セカイ系』とはまた流れを分けるような作品群が現れてくれば、それは ”「君の名は。」以後”という標を立てて、新しい様式として、新たな呼び名を必要とするでしょう。(リア充的「ぼく」とかかな)

現代社会に対する位置づけ)…作品がどれほど社会や歴史を反映しているか、作品がどれだけ社会に影響を与えるか。社会反映論的な指摘を書ければ評論としては厚みがつくような気がしますが、多かれ少なかれ政治的な話題に発展するので、多少の炎上のリスクを背負って書くことが望まれます。


ここまでは批判対象の作品の話。丁寧に書ければ批評としてかなりのものができるでしょう。
嫌いな作品を正当性をもって批判していることの担保になります。(そのぶん嫌いな作品ほど読み込む必要があるというジレンマがありますが。難しいですね。)

そして

自分の美学との対比自分の好きな形式と様式の掛け合わせはコレなんですよ、という個人的美学の提示

ex)

・「漫画」×「百合」が好き。特に女の子同士が心通わせるときの恥じらいや戸惑いが含まれた表情が繊細なタッチで描かれていると途端に引き込まれてしまう。その点で言えば「木由子ホホホさん」の表情描写には圧倒的大正義パワーはかんじられるものの、私が百合に求める繊細さはなかった。


×柚子森さんって顔溶けてない?wwwwwww

柚子森さん 1 (ビッグコミックススペシャル)

柚子森さん 1 (ビッグコミックススペシャル)

今日は冬至ですね。柚子森さん読みながらお風呂入りましょう。

・「音楽」×「演歌」が好き。豊かな情景を情緒たっぷりに表現する歌詞と抑揚の効いた歌声を聴けば、頭の中でみるみるイメージが膨らみ、男女の悲恋や人間の情などが深くまで味わえる。他方、流行りの「J-POP」では「好きだよ」「会いたい」「震える」など、心情をそのまま直接的に歌うフレーズばかりが並び、メッセージ性をわかりやすくするためとはいえ、聞き手が好きにイメージできる余白があまりないのが残念である。


×「最近の若人は西野カナ?っていうのがイイみたいだけど自分みたいなオジさんにはちょっとね……^^; なんか歌詞も薄っぺらそう(笑)マ、若い子は短文コミニュケーションに浸かってるから安直な歌詞を喜ぶんだろうな。これもスマホ社会の弊害かな(^_^;)」 ←(安易な現代社会に対する作品の位置づけ)

・「映画」×「青春もの」が好き。とくに「サマーウォーズ」では、高校生の恋愛の結実だけでなく、家族内の確執の解消、愛別離苦、地元の誇り、電脳世界体験、世界中が一丸となって危機を乗り越えるカタルシス、少年たちの一夏の成長などの諸要素をダイナミックに、かつ盛り込みすぎを感じさせないよう巧みに描かれている。主人公の数学能力もストーリーのキーとして生かされ、神木隆之介の演技も良い。様々な面にフォーカスがあたる、大好きな作品だ。
しかし、同じ神木くんが主演を務めるセカイ系作品「君の名は。」は主役2人の関係のみに終始焦点を絞り、親娘の確執、親しい人が亡くなること、地元への鬱屈、少年たちの成長などの要素は、少し触れるだけで十分に描かれず、危機回避フェーズのカタルシスも不完全燃焼で終わる。主人公の卓越した画力も物語上での必要性を感じない。運命の相手を信じる人間にはこれ以上なく気持ちの良い作品だとは思うが、ないがしろにされていると感じる重要なテーマも多く、個人的には穴だらけの凡作のように感じた。
少年少女たちの成長がどう描かれるか、その成長が物語にどのように寄与するのかが青春ものの醍醐味だと思うので、成長・成熟を重要としない『セカイ系』とは相性が悪いのだろう。


×「君の縄。」が「サマーウォーズ」の丸パクリ超絶劣化版な件についてw(無闇な対立煽りは好きな作品まで貶めてしまうぞ!自分からは焚きつけない、他人がしていても乗っからない心がけが重要だ!

推し様式を説明するときに、具体的な作品を必ず挙げなくてもよいです(対立煽りがちになるので)。なぜ「君の名は。」を嫌うのか、作品に何が欠けているのか、作品にケチをつける理由を明快にします。「私が尊重したいとする価値へのアプローチが、この作品の様式ではこのようにおろそかになってしまっている」など作品の問題点、物足りなかった点を突くことができればよし。
「こんなクソ作品を支持してる奴らは思慮の浅いクソバカどもだ」などとバーサク状態で実体のない相手と戦うよりも、多くの人間に意見を聞いてもらえることでしょう。

単に自分の好き嫌いの問題に収めず、普遍的な欠陥を指摘できたらグッドですね。

ふう……。だいたいこんなかんじでしょうか????
15,000字近くになってきたのでもうそろそろ終わります。こんなに長くなるなら分割して前半を早めにアップすればよかった。

最後まで読んでくださった皆さんありがとうございました。
君の名は。が好きな人も嫌いな人もまだ見ていない人も、みんなが笑ってすごせたらいいですね。

それでは。よい作品体験を。

【12/21】棚町薫編④(終)

棚町薫編 第4章「シンテン」

QP:第3章は、比較的短くまとまって良かったですね。
ミシ:第2章までで問題となる点は言及できましたからね。最終話もさらっと観て行きましょう。あんまり長くなるとアレですからね。2人の恋の顛末は果たしてどのような色を見せるのか。
醤油:パステルカラーでしょ。
ミシ:さすが醤油君。丹念によみ込んでますね。
QP:あ、OPはカットです。
ミ・醤:そんな~。
f:id:mantropy:20161221162305p:plain
ウメハラと田中の奸計により保健室で鉢合わせする純一と薫)
醤油:ウメハラと田中さん、お似合ですよね。くっつけばイイのに。
ミシ:かれは、孤高のピエロですから。職人芸ですよ。
QP:学校でファミレスの制服を纏うことによって醸し出される官能感、ヤバイですね……。
ミシ:センセーイ、QP君が前屈みになってまーす。
醤油:あなたは小学生ですか。
(純一「薫はイヴに予定とかあったりする?」)
(薫「あるわよ」)
(純一「え゛」)
(薫「今更なに言ってんの。あんたとデートするに決まってるでしょ」)
ミ・醤・QP:YAFOOOOOOOOOOOOO!
QP:長かったですね。
ミシ:はじめてコンセンサスが取れましたね。
醤油:些か急すぎる感も否めませんが、これまで培ってきた素地があったと言うことでしょう。
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(なにを着て行くか悩む薫。薫「服も大事だけど、勝負パンツ、とか?」「うおおおおおおお、なに考えてるの、わたし!?)
ミ・醤・QP:うおおおおおおお!
ミシ:服装で悩む描写が挿まれてるのは、薫のみなんですよね。
QP:なんか意外ですね。
ミシ:梨穂子のSS+にも、一応そう言ったシーンは見られますが。
醤油:あのワンピース、可愛かったですよね。
QP:よく覚えてるな、コイツら……。
ミシ:紳士の嗜みです。
(デート当日。案の定遅れて来る薫。2年前のトラウマが脳裏によぎって不安に駆られる純一。服装選びに時間をとられてしまったと弁解する薫。純一「心配してたんだ。すっぽかされるかと思って」)
f:id:mantropy:20161221162311p:plain
(薫「それは絶対にナイ」「ほら、笑って笑って」)
QP:コイツ、純一のトラウマ知ってますよね。なのに、なんで30分も遅れて来るんですか。無神経過ぎやしませんか。
ミシ:さすがに故意でしょう。2年前悲劇が起こったまさにその日に、再び待たされ、それでも最後にはしっかり待ち人が現れると言う結末の異なる体験をさせて、トラウマを解消せんとしてるんです。普段ルーズな薫のみに許された荒療治、記憶の上書きですね。
QP:わたしは、あんたを悲しませたあの女とは異なるぞ、と。好意的な解釈ですね。
ミシ:なにか不満でも?
QP:イヤ、本当にそうだったら幸福だなと思ってしまって。
ミシ:実際のところは、誰にも解かりませんからね。僕らにも、おそらく薫本人にも。
醤油:森島編では逆に純一側が遅刻することで、トラウマの解決に臨んでますよね。特別な約束でも遅れてしまう止むに止まれぬ事情がある点。かつて自らがそうであったように、不安に煽られながらも待つ森島先輩の姿勢に、同種の真剣味・真摯さを感じとれた点。2つを実感するや否や、あの日のトラウマは純一の頭から上るユゲとなって、キレイさっぱり無くなってしまうんです。
ミシ:純一のトラウマの解消なるテーマは、次の中多紗江編で最大限活用されるのですが、この話はそのときに。目下は薫ですよ、薫。
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(デートの行き先はポートタワー)
醤油:これ、明言はされんけど、父母に聞かされてたプロポーズの焼き直しだったりするんですかね。どこぞのタワーのてっぺんで、聖夜に告白。
ミシ:ロマンチックですねぇ、醤油君。得心しちゃったよ。
醤油:だから照れますって。
QP:これ、タワー登る前に地上で昔話に華を咲かせるんですよね。これまで蓄積されたものに支えられ、2人は更に高位のステージへと旅立つわけです。
(高所恐怖症をおして2人はタワーの展望台へ)
ミシ:ちゃんと昇れましたね、高みへ。ぐすっ。あ、なんか涙出てきちゃった……。
醤油:まだクライマックスではありませんよ。
QP:一緒に頑張ろう、ミシェル?
ミシ:うん。頑張る。
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(純一の恐怖症を和らぐために手を繋ぎ、頂上から自分達が生まれ育った町を眺める2人)
ミシ:手を繋ぎ、純一の不安を包み込もうとするのは、まさしく薫の母性の発露ですよね。
醤油:と言うと、ここに至って薫は既にグレートマザーの呪縛を超克してると。
QP:もっと言うと、家庭内の不和が一段落した3話のラストで女性性を獲得済みでしたよね。
(薫「わたしは、ここで生まれて、ここで育って、ここで恋をしたんだよね」)
(純一「うん」)
(薫「あたしね、今日は純一に伝えることがあるの。悪友・相棒・腐れ縁、わたし達の関係を表す言葉は一杯あるけど、そんな距離じゃもう我慢できないの」
(純一「薫……」)
(薫「やっときづけたの、自分のきもちに。今までのわたしは、何時もアンタを引っ張り回してるつもりだった。でも、それはちょっと前までの話。何時の間にか、あたしはあんたに惹かれてたの」)
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(薫「わたしはね、あんたのワルイところ100個は言える。でもね、イイとこは101個言える。純一、わたしアンタのことが好き」)
ミシ:うわあああああああああああああああああああああああああああああ!
(純一「今は自信をもって言える。僕も、薫が好きだ」)
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ミシ:うわあああああああああああああああああああああああああああああ!
醤油:うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!
QP:うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
ミシ:もうなんか、グレートマザーとか、女性性の獲得とか、どうでもよくなっちゃったな。
QP:あなたがそれを言うんですか。ここ、告白は薫からなのですが、キスは純一からで、6話屋上の関係の変化をせがんだ薫からのキスに応える形になってるんですね。
醤油:しっ、静かに。まだロスタイムがありますよ。
ミシ:ああ、僕この後の展開、大好きなんですよ。
QP:もう骨抜きですね。
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(終バスが無くなってしまったため、純一の自室へ招かれる薫。押し入れプラネタリウムをもの珍しそうに見る薫)
醤油:どんどんプライベートスペースに入り込んで行きますね。
QP:しかし、押し入れのプラネタリウムも、純一君にとってはもう不要ですよ。
ミシ:一番光る星見つかっちゃったからね。
QP:誰かこの人を止めろ。
(薫「傷口なめてあげようか?」純一「え」薫「これも冗談。でも一緒に寝る」)
ミシ:同衾ですよ!? 同衾!
QP:この絵面は夫婦ですね。
醤油:恋人の関係、飛ばし過ぎではありませんか?
ミシ:距離が近すぎたためでしょうね。関係の定義が曖昧だった頃に、すでに恋人のイベントは消化し終えてるんでしょう。そうとは知らずにね。
QP:2人にとっては通常運行なんですよね。特に薫は、理解のある父に添寝される安心感が先行して、余裕がある。
醤油:較べて純一のほうは、まだそこまで割りきれてませんね。
ミシ:恋人として意識するようになってから、まだそれほど時間が経ってませんからね。女性としての薫への愛情・劣情と、これまでの薫への父娘愛の統合が未だ不充分なんでしょう。
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(緊張でそわそわと落ちつかぬ純一のマウントをとり、キスをする薫)
醤油:QP先生、お待たせしました。時間です。
QP:わからーん。
醤油:このあと寝ちゃうんですよね、薫ね。
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ミシ:はあ、幸せそうな表情ですね……。今日はここまで。目まぐるしく関係が進展したために、許容量を超えて、無意識のブレーカーが落ちてしまったんでしょう。可愛ええな。
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(翌あさ、自転車の二人乗りをする純一と薫)
QP:これ、第1話冒頭の構図と同じですね。
ミシ:やってること自体は同じに見えて、その実2人の関係性は変わってますからね。好対照で、印象に残るシーンです。
醤油:雲の情景多用されてますね。キレイです。
QP:屋上で唇同士が触れ合ったシーンは昼、2人の仲が進展するイベントは夕暮れ、バイト先で会話やキスをするシーンは夜。それぞれの空模様を画面に映すんですよね。そしてあさが来て、自転車に乗る。これは5話冒頭からの友人関係の延長であり、6話以降で積み重ねてきた恋人関係の結実でもあります。
(薫「まだこの自転車あったんだ」)
(純一「僕の愛車だからな」)
(薫「中学の頃は、これであちこち行ったね。よく2人で遊んだもんね。楽しかったー?」)
(純一「まぁな」)
(薫「これからも楽しーよね?」)
(純一「うん」)
f:id:mantropy:20161221162336p:plain
(薫「あたしたちの関係も一歩進んだわけだから、もっと楽しーことが一杯待ってるよね?」)
(純一「そうだな」)
ミシ:北から来た北風が、これからも2人の背中を押すんですよね。
QP:やっぱり「風」なんですね。
f:id:mantropy:20161221162338p:plain
(fin)
QP:ああ、よかった。
ミシ:最高だった。
醤油:最終話「シンテン」。ここでやっと2人の関係は進展を見せた訳です。やはり今までは父子だったんですね。次は……、中多紗江編ですか。
QP:僕、知ってますよ。ミシェルの一番好きなヒロインでしょう?
醤油:ヒロインに優劣をつけるなんて、不届き者め。
ミシ:誤解ですって! 中多紗江編は、最もシナリオの出来がイイんですよ。それに中多さん可愛eですし……。
醤油:やっぱ好きなんじゃねーか。
ミシ:と、とにかく次行きましょう。次。

【12/22】中多紗江編につづく。