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京大漫トロピーのブログです

【12/21】裏アドベントカレンダー。棚町薫編①

※本記事は、http://clavis.info/wiki/amagami_ss_review_indexに掲載された緻密で壮大な『アマガミSS』レビューの先を見てみたくなったミシェルと醤油が、無知なQPを巻き込み、森島はるか編以降第5話からひき継ぎレビューを試みる企画です。したがって、本家様で語られた刺激的な考察や観点をふんだんに前提知識としておりますので、悪しからず。

そして賽は投げられた。

棚町薫編 第1章「アクユウ」

ミシ:『アマガミSS』レビュー。記念すべき1人目は棚町薫。主人公・橘純一の中学からの悪友です。
QP:唐突ですね。もうちょっと前置きとか無かったんですか?
醤油:ggrks。
ミシ:薫編も、やはり2年前のクリスマスの悪夢、純一がデートの約束をすっぽかされたシーンから始まります。
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(しょぼくれた様子で自転車を押す純一を見兼ね、声を掛ける薫)
醤油:ああ、佐藤利奈の声イイですね。
ミシ:同感です。
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(教室。背後から突然耳を噛まれる純一)
QP:うおっ、ビビるわ。
ミシ:なぜ、このような奇行に及ぶのか。
醤油:「父親の不在」ですよ。薫さん家は母子家庭ですからね。身近な男性との距離感を測りかねてるんでしょう。
ミシ:なるほど。代償行為なんですね。
醤油:円満な夫婦への憧れから、純一に対してしつこく夫婦漫才を迫るんですよね。
QP:ちょっと可愛ええな、それ。
(遊びに誘う薫・梅原。トラウマをふり払えぬ純一。綾辻さんに注意される。)
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ミシ:ああ、塵芥を見る目をしてますね。まるで、藤崎詩織のようだ(うっとり)。
醤油:ゴミなんですか?
QP:ゴミでしょ。
醤油:2人に通じる固有のマインドは表面化されぬだけで、もう芽生えてると思うんですけどね。
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(薫「どっちの味方なのよ!」)
醤油:ほら。綾辻さんを擁護する純一に対してサトリナが嫉妬して怒ってますよ。
ミシ:主人公に手を出すヒロインはちょっと……。
醤油:サトリナの声だから許されます。
QP:これも過度なスキンシップの範疇と言うことですよ。
ミシ:君達、寛容やね。しかし、なぜ梅原ではなく純一なんでしょうか。梅原のほうが体格よくて、サトリナの猛攻を受けきれると思うんですが。ほら、純一君可哀想にダウンしちゃって、案の定保健室送りにされてますよ。
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(保健室。「怒ってるでしょ」と反省する薫。にべもなく許す純一)
QP:physicalではなくmentalの強さ。
醤油:曲がりなりにも「お兄ちゃん」ですからね。多少の理不尽には寛容ですよ。
ミシ:父性を見出しちゃうんですね。
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(純一「お前に心配されることなんて……」)
ミシ:ここら辺、父と娘の会話そのままですね。
醤油:病床に臥せった親父さんですね。
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(去り際に薫「大事なこと忘れてた。放課後、校舎裏の花壇に来て」→妄想を膨らます純一)
醤油:シミュレーションが始まりましたよ。
ミシ:ああ、ようやく煩悩の描写ですね。この2人、スキンシップが過剰な割には、双方の性に対して無頓着すぎると思ってたんですよ。
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(妄想①ジャーマンスープレックスを極められるパターン)
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(妄想②裸ワイシャツお花畑パターン)
醤油:素直な告白より暴力とセックスを真っ先に想定するの、酷くありませんか?
ミシ:無意識に恋愛の対象から除外されてるんでしょうね。
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(妄想③新妻パターン。ご飯にします? お風呂にします? それとも……)
ミシ:完全に父娘関係のくびきに囚われてますね。薫本人の性質を直視できてません。
QP:ここ、薫が見上げる構図から見下げる構図に変わるのが、マウントを取ろうと必死ですよね。
醤油:な、何を言ってるんだコイツは?
ミシ:QP先生は服従・被服従でしか人間関係を受容できぬ難病を患ってるんです。優しく見守って上げましょうよ、醤油君。
醤油:……そうですね。僕が過敏でした。すみません。Bパート行きましょう。
QP:おう、ちょっと待てやコラ。
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(Bパート。梨穂子に心配される純一)
ミシ:梨穂子、東北ずん子の声に似てて可愛eですよね。
醤油:やめろや。
ミシ:たとえば、この額に手を翳して熱を計られる行為。おさな馴染みの梨穂子相手には赤面しますが、薫にされても純一は頬を赤らめんと思うのです。
QP:でも想像の中の薫相手にはハッスルしてますよね。
ミシ:それは妄想だからです。現実の薫を前にすると途端に、無意識下でブレーキが落とされる。実の娘に劣情を催す父親なんて言語道断ですからね。逆に言えば、純一はそれだけ薫のことを大事に思ってるんでしょう。
QP:そうですか? 僕は、むしろ2人の関係性の空空しさを感じましたよ。
ミシ:まあ、対等な関係ではありませんよね。
QP:完全に薫にマウント取られてるやん。
ミシ:えっ。……イヤイヤ、違うでしょう。主導権を行使してるのは純一のほうでしょう。
QP:ええっ。わざと取られてるようなものですけど、下には位置してるじゃありませんか。
醤油:尻には敷かれてますよね。
QP:そうです。
ミシ:でも、重要な局面でのコントロールは明らかに純一がにぎってますよね。娘のイタズラが決して過ぎたものにならぬよう、薫を守る名目下でのみ行使に及ぶ。
醤油:理想の父親像ですね。
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(放課後、校舎裏。薫の用事は想定したどのパターンでもなく、親友・田中さんの恋愛相談であった。肩透かしを食らう純一)
ミシ:実は僕、田中さん関連のエピソードの真意を掴みかねてるんですよね。この話、必要ですか?
醤油:薫本人から「恋愛」なる発想が生じぬ以上、外部の親友に委託させ、それに向き合わせることで純一への好意を自覚させるしか手段が無かったんでしょうね。
ミシ:それだと、あまりにも装置的すぎませんか?
醤油:装置だよ!
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(キスさせろ、だってさ!)
QP:背後から耳に噛みつくのはOKで、キスは駄目? 薫の価値観が解からへん。
ミシ:男性全体に対する不信感から生じる義憤ですよ。義憤。
醤油:この後、薫にとって男性は明らかに悪である描写がされますからね。
ミシ:でも本当、なぜ純一ただ一人は憎悪の鉾先から免れてるんでしょうか。男性不信の人間の父親ポジションに収まるには、なにか相応の劇的なドラマを要すると思うのですが、短絡的でしょうかね。
醤油:本当、なんででしょうかね。不思議です。
QP:案外、冒頭の2年前のクリスマスが契機なんじゃありませんか。弱りきった純一の姿を目の当たりにすることによって、男性の強権的なイメージが薄れ、同じ人間としての同情が芽生えると同時に、コイツなら比較的マウントを奪えそうだと安心感を得た。そう言うことでしょう。
ミシ:たしかに。
醤油:純一君は、負けることで勝つ人間ですからね。
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(解決方法を提案する純一。見直す薫)
醤油:即席やなぁ。これで見直すとか、ちょろすぎません?
ミシ:う~ん、純一君の口から割と中立的な意見が出てきて安堵してるのでは? 少なくとも、薫が非道だと感じた男に対して共感はしてくれてるわけですからね。
醤油:なるほどね。
バイト先のメニュー「北から来た蟹グラタン」がナンセンスだと愚痴る薫)
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ミ・醤:北から来た蟹グラタン!
QP:なんだコイツら……。
ミシ:ヒロインごとに特定の食べものが出てきますよね。「北から来た」って、なんかキーワードになりそうじゃありませんか?
QP:ホンマか? この単語好きなだけやろ。
醤油:そうだ! そうだ!
ミシ:ぐへぇ。
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(薫「制服にエプロン姿、似合うかも」)
ミシ:これも随分と直接的ですよね。家事に勤しむ夫のイメージを押しつけてます。
醤油:高校生はこんな言葉口にせんからな、普通。
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(純一「今日花壇に呼び出されたとき、薫に告白されるかと思っちゃったよ」)
ミシ:これ、一見すると純一のほうが薫を恋愛対象として意識し始めたようにもとれるんですが、実際は薫のほうが意識するようになるんですよね。
醤油:2人の関係性の主導権をにぎってるのは、あくまで純一側なんですね。
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(薫のバイト先「トトス」に突撃する純一。貧乏なので最も安価なコーヒーを頼む)
ミ・醤:(北から)来ちゃった。
QP:楽しそうですね。
ミシ:純一君はねぇ、金も社会的地位も人並み以下ですが、甲斐性だけはあるんですよ。憧れます。
QP:薫のスカートの中をさりげなく覗こうとする純一君。バレバレですよ。
醤油:一連のやりとりを経て、スイッチが入っちゃったんでしょうねぇ。薫も、これは恥ずかしがるんですね。
ミシ:父親と風呂に入るのを嫌がる娘の心理ですよ。女性としての身体的変化を、父親から秘匿せんと防衛機制が作用してる。
QP:性に対しての恐怖を感じますね。
ミシ:不謹慎な話ですが、父親に虐待されてた、までありますよ。
QP:それで離婚ですか? 有りえますね。
醤油:下種な勘繰りは止しましょうよ。これ以上の言及は、地獄へ一直線です。
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(鏡に映った自分は普段と少し違って見えた)
QP:鏡で自覚させるの、個人的には苦手なんですよね……。
ミシ:ナルキッソスを想起させますよね。純一に恋をしたと言うよりは、未だ恋に恋をすると言った感覚が見出せますね。
醤油:これ以上なくエフェクティブな演出ですね。「アマガミ」は森島編に限らず全編を通じて「水」のイメージが通っており、これもね「水鏡」なんですよ。
ミシ:真言の世界観を採用すると、薫は「風」に相当するようですが?
醤油:南方熊楠の妄言でしょう?
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(復習)
QP:しかし薫ルートでは、空の情景が頻繁に挿入されることもまた事実ですよ。
ミシ:雲が「風」で流れる描写をよく目にしますよね。確認しておくと、真言密教では神羅万象(宇宙の実体)は<六大>の組み合わせで構成され、それらは物質的原理に属す<五大>(地・水・火・風・空)と精神的原理の<識>に分類されます。それは仏菩薩や神、人間も皆一様に六大の融合したものであり、本質的な差異が存在しえぬ事実を意味します。ところが、人間は煩悩に曇らされ、もともと具わった仏種(仏になる本性・資質)を見失ってしまってる。そこで、身(からだ)で印を結び、口に真言を唱え、意(こころ)で仏を描き思うことで、仏と人間の心身の活動を合一させ悟りを開く、つまり即身成仏の可能性を説くのが真言密教の世界観ですね。
QP:話長くなりそうなんで、一旦再生を停止しておきますね。
ミシ:ありがとうQP君。話を戻すと、その六大のうち「風」は<活動・影響>すなわち「変化」を象徴するんです。どうです? まさに純一との関係性の変化に懊悩する薫のことではありませんか。
QP:薫の髪型もウェーブ掛かってますしね。
醤油:なるほど、風薫る。名前から見ても、そうなのかもしれません。しかし、七咲が「火」ですよ、火。あの後輩女子が<成熟・浄化>を体現するとは、僕には到底思えんのですが。
ミシ:その話はまた、あさって(予定)の七咲編で検証します。とにかく現状では、薫には「風」の要素がある可能性を念頭に留めておきましょう。
QP:あのー、そろそろ続き観ましょうよ。
(ED)
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醤油:ヒロイン全員のEDにある、星空をバックに全裸でたゆたうカットは何なのでしょうか。
ミシ:神羅万象、六大でしょ。
醤油:コラッ。
QP:単純に純一の部屋、押し入れに作ったプラネタリウムをイメージしてると思うのですが。
ミシ:四畳半を広げたくて~♪
醤油:純一の部屋は四畳半の2倍ほどありますけどね。
QP:精神的に落ち込むと押し入れに閉じ籠って星座を指でなぞる。
ミシ:そして美也が踊ると中から出てくる。
醤油:天岩戸ですね。
ミシ:ED、歌詞がエモすぎですね。ずっと自問自答してます。
醤油:なぜ。なぜ。マイハート。
QP:残り3話で答えが解るとイイのですが。