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京大漫トロピーのブログです

【12/29】裏アドベントカレンダー最終日。絢辻詞編①

絢辻詞編 第1章「ハッケン」

(日の当たらぬ路地裏。あさ露が額をじっとりと濡らす不快感に、醤油は目を覚ます)
醤油:……ここは……、どこだ……?
(霞のかかった頭をふり、周囲を確認する醤油。しかし、どれほど目を凝らしてみても、ここがどこなのか、どうした経緯で惨憺たる現状に陥ったのか、見当もつかなかった)
醤油:僕の名前は醤油、それは覚えてる……。
(好きな食べものは、ケチャップを沢山盛ったハンバーグ。太宰治をこころから愛し、休日は池袋のスタバでソイラテを愉しむのが唯一の趣味……。しかし、それ以上のこととなると、とんと記憶が無かった。とほうに暮れる醤油。やるかたなく、自身が愛用するモスグリーン色のコートを見つめる。左ポケットの端にできた真っ黒な染みは、己の不安を象徴するかのようだった)
醤油:……このままでは、寒さにやられてしまう。とにかく動き、情報を集めなくては……。
(ぼろぼろの身体をひき摺って、無人の街を徘徊する醤油。中華料理屋、バー、イタリアン。飲食店が立ち並ぶのを鑑みるに、どうやらここは繁華街であるらしかった)
醤油:昨晩、僕は泥酔して潰れたのか? しかし、それにしては吐く息にアルコール臭さが感じられず、思考もクリアだ……。
(見知らぬ道を延延と往く。やがて、モーニングセットの看板を出す喫茶店を発見した)
醤油:あさ早くから営業とは、たすかる。資本主義に感謝だな。幸運なことに金もあるし、ひとまず、ここで暖をとろう。
(おずおずと中に入る。暖かみのあるペールトーンの照明。年季を感じさせつつも、清潔感をたもったインテリア。エリック・サティの「ジムノペディ」も、人間が安らぐのに最適な音量で、なかなかどうして洒落た空間であった。なにより暖房が良く利かしてあるのがイイ。大きな安堵に背中を押され、カウンターの一番奥に位置どると、おそらく主人であろうダンディな中年男性に出迎えられる)
主人:本日はようこそ、喫茶「ブーゲンビリア」へ。ご注文はどうなされますか?
醤油:モーニングセットで。
主人:かしこまりました。
(てもち無沙汰になった醤油は、それとなく周囲に目を遣る。不思議なことに、客は醤油一人であった。ほど無くして、商品がサーブされる。焼きたてのロールパンは言うまでもなく、プリップリッの目玉焼きにパリッパリッのベーコンのコントラストが絶品であった。サラダもしゃきしゃきだ。特に、エチオピアの芳醇な土壌を薫らせるコーヒーは、醤油の失われた体温を身体の芯から補填した。あまりにも完璧なもてなしに、醤油の目から涙が溢れる)
醤油:ぐすっ。美味え……、美味えよ、マスター。
主人:お褒めにあずかり、光栄です。……失礼ですが、なにかおツライことでも?
(醤油は、目のまえの男に、嗚咽を洩らしながら吐露した。あさ、路地裏で目を覚ましたこと。記憶を失ったこと。寒さを堪え、延延と歩んだこと。本当は、直ぐにでも泣き出しそうなほど不安だったこと。その全てを、主人は黙って聞き入れた)
主人:それは、さぞかしおツラかったでしょう。心中お察し致します。
醤油:……同情してくれるのか、マスター? ありがとう……。
主人:礼には及びませんよ。わたしも若かりし頃、もう随分と昔ですが、道に迷ったことがありました。あたりは真っ暗闇で、足もとも不確か。もうこれ以上、一歩も前に進めそうになかった。しかし、そのとき、声が聞こえたんです。
醤油:声?
主人:ええ、声です。はじめ、その声は暗闇の中、どこか遠くから自分を呼ぶようでした。しかし、よくよく耳を澄ましてみると、どうにも直ぐ間近、それも己の内部から発せられてるようなんです。
醤油:自己から発せられる声……。
主人:そう。答えは全て「ここ」に用意されてる。
(人差し指で項垂れる醤油のむなもと、ハートを指差す主人)
主人:そのことを知覚できたとき、世界を覆う暗闇は嘘のように晴れ、目のまえに己の進むべき道があらわれました。お客さん、あなたはその声を聞くことのできる人間です。
醤油:…………。
主人:お帰りはあちらの扉になります。お代は要りません。本日は12/29。クリスマスはとうに過ぎたとは言え、あなたにはやり残したことがある筈だ。
(主人に案内され、奥の扉をくぐる醤油。醤油が最後に見たものは、親指を立てニッコリと笑う主人の姿であった)
主人:グッドラック。あなたのゆく末に、幸おおからんことを。
(再び目を覚ました醤油が見たものは、ミシェル家の見慣れた天井であった)
醤油:ん、んぅ……。
ミシ:……醤油君っ! 醤油っ君! 見てくれ、QP君! 醤油君が意識をとり戻したようだぞ!
醤油:こ、ここは……?
QP:覚えてませんか? 醤油君、アマガミレビューの途中に飛んだんですよ。
醤油:そうか。そうだった。僕は「空」には至れなかったのか。
QP:失神したあと、なかなか目を覚まさなくて随分と困ったんですよ。生命活動自体には問題無さそうだったため、ほうって置きましたが。
醤油:酷くありません?
ミシ:梨穂子の「つむの一突き」を食らったのだったら、自然に目覚めるまで安置しておくべきだと考えたんですよ。途中、なにやら魘されてましたが、悪夢でも見ましたか?
醤油:……導かれたんです。老賢人(オールドワイズマン)に。
ミシ:え?
醤油:……なんでもありません。それより、クリスマスは過ぎてしまったんですよね?
QP:残念ながら、もう12/29です。僕達は、5日目・絢辻詞編まで、辿りつくことは出来ませんでした。
醤油:やりましょう。
QP:え?
醤油:やりましょうよ。絢辻詞編。一旦「やる」と言った企画はどんな形であれ、最後までやり遂げるべきだ。
ミシ:……そうですね。やりましょう! 2016年をしめくくるんだ!
QP:よう言うた! それでこそ漢や!
ミ・醤・QP:やるぞおおおおおおおおおおお!
(醤油、再起。レビュー、再開)
醤油:あ、ちなみに僕が落ちてる間、2人はナニをしてたんですか?
ミシ:ナニではありませんよ、醤油君。ニコ生で「ごちうさ」の一挙を観てたんです。
QP:あ^~こころがぴょんぴょんするんじゃ^~。
醤油:Oh……(もしかして夢の中に出てきた喫茶店、ラビッドハウスだったんじゃ……)
閑話休題

ミシ:と言う顛末で、アマガミSSレビュー5日目・絢辻詞編です。
QP:ラスボスですね。
醤油:最高のレビューにしましょう。話はXデーの1年後、去年の創設祭から始まります。
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(創設祭に足を運ぶも、門の前で帰ろうと踵を返す純一。ウメハラにひき留められる)
ミシ:お前が来るのをずっと待ってたんだぜ~。
醤油:ホモでしょう、これ。
ミシ:純一の傷が癒えておらぬだろうと踏んで、故意におちゃらけてるんです。親友の鑑ですよ。
(純一の複雑な内心を慮ったウメハラ。自宅にて、2人で聖夜を過ごすことを提案する)
(OP)
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(来年こそは恋人を作ってやろうと誓う2人)
醤油:美しき友情ですね。
ミシ:ここのゲーム機、90’sと言う設定を踏まえ、しっかりプレステ1なんですよね。
QP:これでは「アマガミ」はプレイできませんね。
ミシ:「ときメモ2」は遊べますから、大丈夫です。
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(回想を終え、現在。HR。創設祭実行委員に立候補する絢辻。その姿に鼓舞され、純一もまた名乗りを上げる。やすみ時間、ウメハラと薫に「似合わぬことをしたな?」と詰問される純一。「クリスマスを頑張ってみようと思った。実行委員になれば、嫌でも当日来るはめになる」と答える)
ミシ:純一自ら、トラウマを解消すべき問題として、克己にあたらんとするのは、絢辻編にのみ見られる出発点なんですよね。
QP:他のルートですと、ヒロインとの「偶然」の遭遇に左右されたのち、はじめて「主体性」が問題となりますからね。
醤油:絢辻編が最終章に位置されるゆえんです。
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(Bパート。純一は早速、絢辻にリードされ実行委員の仕事に臨む。業務の一環として資材倉庫をチェックしに行く2人であったが、閉じ込められ出られなくなってしまう)
ミシ:ここら辺、能面のような笑みで誤魔化してるものの、その実、絢辻さんは苛立ってます。 一人で十分こなせる仕事に、無能な純一が首を突っ込んできた。無知蒙昧な隣人を頼らぬ基本姿勢を貫く絢辻さんにとっては、憤懣ものでしょう。
醤油:隣人を必要とせぬのではなくて、不確定な他者に頼る己を許せんのですよ。責任感が強すぎるんです。完璧主義者なんですね。
QP:ここの「扉を閉めるな」は重要ですよね。純一との密室を拒む。部屋は「こころ」を象徴する。さしずめ「わたしのこころの鍵は、あなたには渡しませんよ」ってところですか。
ミシ:資材倉庫は絢辻さんの仕事の領域・テリトリーである。一種のプライベート空間に、信頼できぬ男を招き入れ、蓋をすることに忌避感を覚えてるんですね。
醤油:しかし、窓から入り込んだ「風」によって扉は閉まってしまう。確保した退路が絶たれるワケです。これは純一が実行委員に立候補することで、クリスマスを逃れる退路を絶った構造と類似します。
ミシ:自発的にしろ、外圧的にしろ「退路を絶つ」ことで進展を見せる話なのか。お蔭で、絢辻さんは嫌忌してた筈の純一と会話せざるを得なくなった。やっぱりね、相互理解は共同作業からはじまるんですよ。
QP:とりあえず同じ時間・空間を共有することが鍵なんです。
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(純一「どうして絢辻さんは実行委員をやることにしたの?」)
(絢辻「だって素敵なことでしょう? 皆を楽しませる御テツダイが出来るなんて」)
醤油:難解ですよ、この台詞は。
ミシ:優等生を装ったふうにもとれますが、偽らざる本音なんでしょうね。
醤油:裏の裏となってます。
ミシ:権謀術策を駆使する絢辻さんですが、それらは全て絢辻さんなりの正義のためであって、ふとしたおりに、根本にある善意が滲み出てくるんですよね。
QP:おおっ、マキャベリズムや。
醤油:ところで、絢辻さんのエプロン姿、可愛くありません?
ミシ:ポニーテールもgoodです。青色のシュシュが堪りません。
(絢辻「橘君は、どうして実行委員になったの?」)
(純一「すこし頑張ってみようと思ったんだ。これまでちょっと消極的だったから、自分を変えてみようと思って。これは、その第一歩」)
ミシ:絢辻さんは、変わろうとする者には些か甘くなるんですよね。優しそうな瞳をしてます。
醤油:しかし、純一が「なんとなく」でした「好きな音楽は?」と言う質問には答えを濁してますよ。
QP:「なんとなく」だからでしょう。大した覚悟もなく踏み込んでくる輩に、絢辻さんはそうやすやすと自らの情報を開示しません。
ミシ:身持ちの堅ぇ女ですこと。
醤油:しかし、そこがイイ。
ミ・QP:同感です。
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(クラス演劇の衣装を借りにきた美也が、タイミング良く資材倉庫にやってくる。救出される2人)
醤油:因幡の白兎とワニザメですよ。
ミシ:『古事記』ですね。露骨やなぁ。
QP:ん? どう云うことですか?
ミシ:イヤね、ちょっと先の話になってしまうんですが、4話で件の演劇のシーンが一瞬映る。そのとき、美也は借りたワニザメの衣装なのに、紗江ちゃんの側は不可解なことにバニーガール姿なんですよ。それはなぜか。最後に並べたワニザメに毛皮を、衣装を剥ぎとられてしまったゆえと推測できるんです。
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(下校を共にする絢辻と純一。姉に出くわすと途端、絢辻は表情を曇らせる)
醤油:めちゃくちゃ不機嫌そうですね。
(姉「詞ちゃんの姉、絢辻縁です」)
醤・QP:ゆかり~ん?
ミシ:世界一カワイイよ!
醤油:ミシェル君って、王国民だったの?
QP:イヤ、これ単なるスタンドプレーですよ。僕、ミシェル君の好きな声優が照井春佳さんだってこと、実は知ってるんです。
ミシ:あわわわわわ……。
QP:ほらね?
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(翌日。クレーマーに責められる純一。堪らず、プールで補習の監修をする絢辻に救援を求めに行く。そこには楽園があった)
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ミシ:なんやこれ。
QP:視聴者サービスです。
醤油:装置ですよ。装置。濡れ場を挟みたかったのと、絢辻さん不在では実務がなり立たぬと言う描写、浪漫と実利を両立させたcoolなシーンです。
ミシ:これ、冬の話ですよ? 安直な露出で、季節感が損なわれてしまうんです。勘弁してくれよ。
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(放課後。手帳を落としたことにきづく絢辻と、それを拾う純一。「中を見たか」と問う絢辻へ「誰のものか確認するために見た」と答える純一。絢辻「そう。見ちゃったんだ」)
(ED)
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ミシ:曲名「嘆きの天使」って。90’sまんまですか。
醤油:むかつくなぁ。
QP:神になれなかった女。
ミシ:森島先輩との対比ですね。
醤油:絢辻詞。詞って名前もね、「司」ではなく「詞」。「言」がつきます。「神の言葉」なんですね。
ミシ:神そのものではなく、あくまで神から発せられたものであると。
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醤油:なんやこの羽はぁ?
ミシ:天から贈られた霊性ですよ。ギフトです。
QP:ああ。クリスマスやね。