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京大漫トロピーのブログです

【12/2】パーティーって言葉に悪い印象があるなら全部パリピのせい

こんにちは。漫トロピー副会長のふれにあです。
若干遅くなりましたが12月2日分のアドベントカレンダーです。
先日のNFは楽しかったです。

やってきましたね、今年もアドベントカレンダーの季節が。
今年のテーマは「パーティー」。パーティーってなんかいいよね、言葉の響きが。大学生になると友達とわいわいやるのって「飲み」とか「コンパ」と呼ぶようになるじゃないですか。それに対してパーティーという言葉の無邪気さよ。誰かの家で壁に折り紙でつくったチェーンみたいなやつ貼り付けてさ、料理囲んでクラッカーとともに始めたいもんだね、ああパーティー
というと凄く懐かしく素敵な感じがしてよいけれど、そう考えると「パーティーピーポー」略して「パリピ」ってほんと頭の悪い品格のない言葉だな。我々の無邪気さを汚さないでくれ。

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さて、漫画の紹介。今回はNFの総合ランキングでは語られなかった新しい作品を探してきて語ろうということで、今回もジャケ買いをしてきました。プレラン(漫トロ内で総合ランキングを考える数か月前に各自良さそうな作品を10作ピックアップして紹介する会)で3作ジャケ買いしたときは正直はずれが多かったけど、懲りずに選んだよ。はいこちら。

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あ!! いま読んでる漫トロ会員の何人かの心の声聞こえたよ!?
「あ~、こいつが好きそうな表紙やな……」って。
それは否定しないけど。ジャケ買いだしね。
この漫画は2019年10月5日付けで発売されたイトイ圭さんによる作品です。僕はこの作者の作品を初めて読みました。「楽園」で連載していたそうです。残念ながら来年のランキングには入れられません。
ところで僕は昨年施川ユウキさんの『ヨルとネル』について書いたので、奇遇にもまた「○○と○○」というタイトルのものを紹介しているんだね。
パーティー? 関係ないっす。

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主人公は女子高生の頬子。父親はロックバンド「花と頬」のリーダーを務めている。ある日委員会の仕事で話すこととなったクラスの男子・八尋に、父親がミュージシャンであることを気づかれてしまう。コアな音楽趣味を持つ八尋は頬子の父の大ファンだったのだ。そこから二人は静かな図書室での筆談を通して、互いの趣味などについて話を深めていく。気づけば頬子は、八尋に紹介された音楽ばかり聴くようになり、八尋に想いを寄せてるようになっていた。しかし、距離を縮められたかと思うと、話の中心は父の音楽のことばかりだった。「好きなミュージシャンの娘だから私と話しているの?」と不安になり始める。未だ垢抜けない不器用な二人と、彼らを取り巻く人々の、ひと夏の物語。
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というお話。1巻完結だよ。
率直な感想は、「淡々とした進行でこちらが行間を読まないといけない部分が多分にあるが、キャラの機微を繊細に描けていて素直に切ない気持ちになれた。面白かった。」といったところでした。
雑に言うと、「田島列島や『違国日記』好きな人は割と好きそう」。
この作品をジャンル分けするなら「恋愛もの」ということになるけど、ドラマチックな事件やボロボロ泣けるシチュエーションはあまり見つけられないかもしれない。しかし、我々の日常も別に「恋愛もの」でも「バトルもの」でもないし、回収されない伏線もあるし、覚えていることしか覚えていないものでしょう?
ジャケ買いが大外れだったら別の漫画で描くことを考えていたので、これで書けることを嬉しく思う。

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視線の移り変わり上手いね

作中の描写はほぼすべてが、「舞台に役を配置し、吹き出しでセリフを言わせる」だけのシンプルな手法で進んでいく。
静かなタッチで描かれていく登場人物は、いつも表情にコンテクストが込められている。特に視線の向け方が毎回毎回上手いなと思った。会話文も不自然さがなく、作り話感を抱かずに読み進められる。それだけ丁寧に作りこまれている。
物語中何度も、頬子と八尋によるルーズリーフ上の筆談が描かれるんだけど、ふたりの文字の癖から明らかに書き手が区別できるところや、一昔前のメールのような、もどかしくもドキドキするやりとりには、つい「いいなぁ」と思わずにはいられなかった。あまずっぱい。

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なんかいいなぁ

音楽、文学、時には漫画が会話の中で数多く紹介され、物語のアクセントになっている。コアな音楽には全く知識がない中で、親しい人から勧められたものをとりあえず見てみるという展開は、多くの人が経験したことがあるのではなかろうか。

主要キャラ二人の関係性が変化していくところが主な話題だが、有名人の娘に生まれた頬子が父のファンである八尋に想いを寄せていくという設定は、他のどこかで似たようなものを見たことがあるような気がしながらも、陳腐さはなかった。
そこでミュージシャンの父親をもつ頬子と医者の父をもつ八尋の、似ても非なる家族観が物語を引き立てている。大きな力を持つ父をずっと見続けてきた二人はその家族観に少し冷めたところがあり、そこが話しやすさにつながっていたのではないかと思う。

一番心にきたのは終盤の展開だが、それをここで語るわけにはいかない。
読み手が意欲的に読もうとすれば深く味わえる作品だから、ここまで読んで「良さそうだな」と感じたら実際に読んでみてほしい。

しかしながら、僕が2回読んだ程度では直接描写されていない設定や出来事を読み取るのは難しかった。ブンピカ持ってくからみんな読んで話聞かせてくれ。
作者はあとがきで「世界で3人ぐらいしかこれを読んでいないんじゃないかと思って描いた。登場人物の背景のストーリーはあるが、それを描くより読み手のなかで余韻に浸ってほしい」というようなことが書かれているが、僕としてはもうちょっと説明が欲しかったなあ。これだけ精神描写上手いんだから。

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ところで、この前みかんばことだちと僕だけがブンピカにいたときに、「読み手である自分が物語の主人公より一回り年上になっちゃうと、もう『浸る作品』としての側面が大きくなりすぎちゃって悲しいね」という話をしたけど、この作品でもかなりそういう要素はあった。くぅー。

俺たちの青春はまだまだこれからだ!


(ふれにあ)