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京大漫トロピーのブログです

【12/4】YA向けをいつまで楽しめるか問題

紅白対抗アドカ4日目、白組2人目のやまぴです。特に理由もなく遅れました、すみません。



最近授業で図書館司書関係の授業を取っていることもあって、YA(ヤングアダルト、主に12~18歳の中高生)向けの作品に触れる機会が増えている。



元々「思春期」「青春」「甘酸っぱい恋愛」みたいなワードに弱く、その辺を扱った作品を見ることが好きだったので苦にはならない、と思っていたけど、寄る年波には勝てないのか、それともこれも成長の一貫なのか、若干青臭かったり眩しかったり、少なくとも昔のように主人公たちと同じ目線で物語を追体験することは日に日に難しくなっている気がする。悲しいね。




とはいえ、例え同じ目線にはなれなくとも、過去の思い出を慈しみ、追憶のかけらを噛みしめ、嘗め回し、しゃぶりつくすような感傷的な鑑賞の楽しみが新しく増えたともいえる。いつまでそれも続けられるか一抹の不安はよぎるけれど……。



さて、今回紹介する『ルート225』もそんなYA向け作品を探す中で見つけたもの。(この先ネタバレあり)



原作は芥川賞作家の藤野千夜、漫画は『放浪息子』とか描いてる志村貴子。淡い水彩画調の絵で、優しさと脆さが共存してる感じが題材とかみ合ってる。



水彩の余白の「白」も輝きが若さの象徴のようで、大学3年目おぢさん予備軍の目にはまぶしく映る。はい、これでテーマ回収。(つーかこれが限界)


14歳の少女エリ子は、一つ年下の弟のダイゴと家に帰る途中でおかしな世界に迷い込んでしまう。そこは現実と少しだけずれたパラレルワールド。微妙に違う風景、死んだはずの少女が現れ、家にはまだ温かいシチューがあるのに両親の姿はない。身に覚えのない仲直りをしている元親友。果たしてエリ子とダイゴは、両親のいる元の世界へ帰ることができるのだろうか。


あらすじはwikipediaから引っ張ってきたけど、早い話がパラレルワールド物。辻村美月『ツナグ』とか森絵都『カラフル』とかもだけど、こういうSF(少し不思議)要素は思春期の揺れ動く心情とすごくマッチしていると思う。子供と大人、日常と非日常、両方の狭間を行ったり来たりできるのはこの時代の特権だ。

こういうのわかるーーーーーー


この作品は基本的に姉のエリ子のモノローグがメインだけど、この独白が性に合うかどうかでこの作品の評価が決まる気はする。Amazonのレビューでは「少女の口調が鼻につく」みたいな意見も散見されたけど、個人的には結構気に入っている。若干斜に構えていて、かつそれに応じたメタ認知能力と年齢特有の豊かな感性はあるがそれをうまく言語化する術は持ち合わせていない程度の、思春期の中学生としては中々いい塩梅のキャラ造形だと思うよ。



その他のキャラも弟のダイゴは姉とは対照的にあまり自分のことを喋らないタイプだけど、SFへの順応度は高くて元の世界に戻るために活躍したり、エリ子の幼馴染のマッチョは「彼氏じゃない」けど、どの世界でも親切ないいやつだったり、この辺はYAの文法に乗っ取っていてなじみやすい。




姉のエリ子の独白に合わせて、物語は進んでいく。世界は少しだけ、でも確実に変わってしまっている中で、弟のいじめの問題、疎遠になった親友や苦手な叔父との関係など、思春期の問題をこれでもかと詰め込んでいる。個々のエピソードも(若干脚色はありつつ)心情面での解像度が高いが、こんなん全部並行して取り組んでたら頭おかしなるよ……。

いじめっ子相手でもさすがにやりすぎや




そんな状況でもエリ子は弟の前では普段通り「姉」として、そして、違う世界のクラスでも「エリ子」として気丈にふるまう。全部が少し違っていて、何より昨日まで当たり前に一緒に暮らしていた両親が存在しない世界。仮に自分がこの世界に迷い込んでしまったとして、彼女のように強くいられるだろうか。



唯一涙を見せるシーン、オネエチャ……



その後も姉と弟は協力者の助けを得ながら、なんとかパラレルワールドの世界の謎を解明していく。こういったYA向け作品は道中どれだけ辛くても最後にハッピーエンドと、そこから得られる教訓がセットになっているのがお約束だからね。結末が決まってる分ドキドキは少ないがその分安心して見れるのが良い。







ん?んん?あれ、お約束だよね……?










え、え、え、ちゃんと、元の世界に帰れるよね……?あと、7ページしかないけど、大丈夫?おぢさん、手伝おうか……?













あ、あ、あ、あ、、、、、、うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(ここで手記は途切れている)












最後にタイトルの話だけ。『ルート225』は国道225号線と√225=15のダブルミーニングになっている。


国道225号線は鹿児島県鹿児島市から枕崎市まで至る道路。作中で姉弟が迷い込んでしまった世界では目前に海が見えたことから、場所は恐らく道路南端の枕崎市。そしてそこから数キロ南に進めば見えてくるのは、古事記の神話が残る火乃神公園と、そして沈没した戦艦大和の慰霊碑。そこにいたのが死んだはずの同級生の少女。

今更だけどかわいすぎる


√225=15に関しては作品名でもあり、後半第8章のタイトルでもある。第1章のタイトルは√196=14。この作品の主人公は14歳の少女エリ子。第1章から第8章の間では、作品の描写上(主人公たちの体感上ともいえる)は恐らく3日しか経っていない。



国道の方はラストのネタバレを避けることができないので、√の方を少しだけ考えてみる。といってもこちらは意味は割と読み取りやすい。パラレルワールドの設定はあくまで物語を成立させるためのものだが、それを抜きにしても個々の作品内の3日間の描写は√196=14歳~√225=15歳の体験として普遍性のあるものになっている。親の不在を筆頭に、姉弟・親戚・友人との関係性、いじめ、異性との距離感、すべての問題がパラレルワールドがなくとも彼女たちに当然起こりえたものである。そして、それはつまり、現実世界を生きる読者である思春期の少年少女にも当然起起こりうるものである、というメッセージかな、多分!



とまあ、こんな感じで、自分の子どもができたらぜひ読ませてあげたい系漫画ですが、おぢさん予備軍の自分でも十分楽しめるとてもいい作品です。皆さんもたまにはYA向け作品を摂取して若さを保ちましょう!楽しめるうちはね!