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京大漫トロピーのブログです

【12/1】クリスマスで紅といえば……

どうも、旧会長のなめしです。

今年も漫トロは12/1〜12/25まで毎日ブログを更新するアドベントカレンダー企画をやります。今年のテーマは「紅白」。奇数日の会員が「紅」、偶数日の会員が「白」を題材に記事を書いて、更新ツイートのRT・いいねで競う……らしい。これ勝ったらなんかあるの?

 

さて、「紅白」というクリスマスから年の瀬までを意識したテーマで、流石に初手から年末を先取りするのはよくないだろう。となるとクリスマス、そして「紅」、といえばこれはもうサンタしかない(だいぶ白も入ってるけど)。しかし、サンタ漫画というのはそう多くないのも確か。最近だと板垣巴留の最新作『SANDA』があるが、直近の会誌で取り上げているし、こういう機会には新しく漫画を読まないとなんだか記事の書き損という感がある。

そんなわけでなかなかふさわしい漫画が思いつかず悩んでいたのだが、あるではないか。『SANDA』よりサンタ漫画としての純度が高く、かつ読んでおきたかった作品が。

 

 

 

そう、『★SANTA!★』である

ちゃんとクリスマスカラーなので完璧

別にガチのサンタは出てこないうえになぜ主人公の名前がサンタなのか説明されないとはいえ、音を濁らせた『SANDA』よりこちらの方が真のサンタに近い、ということに異論を挟む余地はないだろう。アドカの歴史も長いので既に誰か使っている可能性があるのが難点だが、打ち切り漫画を読む気分になってしまったのでもう止まれない。

蔵人健吾の『★SANTA!★』は2003年にジャンプで連載され、そして12話にして打ち切られてしまった作品である。とりあえず世界観の紹介だけしておくと、強大な魔神が打ち倒されたのち、各地で獣人が発生、さらに魔神の力が108つに分かれて各地の獣人たちに受け継がれたというもの。うーん。

1話のあらすじ・キャラクター紹介は試し読みでもしてもらえばいいだろう。3話以降はユウヒという鬼との出会いからニャージ一味との戦いに移り、そして俺たちの戦いはこれからだ!して終了。

 

実際に読んでみると、やはり(少年)漫画としては絶望的なまでに面白くない。下の画像は最初のページなのだが、他が黒背景+白文字のなか一つだけ長方形の導入文があったり、魔神を倒した剣士の名前がアララギケイスケだったり、全ての雲行きが怪しい。

作中の空模様がこの漫画の未来を暗示している

そもそも獣人という設定にも無理がある。さすがにファンタジーバトル漫画で動物縛りはハードモードが過ぎるだろ。有名どころの動物には限りがあるし、数を絞って話を作ったとしても獣人を強キャラに見せるのは至難の技にちがいない。キャラ造形(特に獣人)の問題はかなり深刻である。この世界の獣人は豚であれば額に「piggy」と彫ってあり、牛であれば肩当てに「猛牛」と記されているのだが、それはギャグ漫画のキャラクターの作り方だよ……。

なんでpiggy入れちゃったんだろう

作者は『★SANTA!★』の前にギャグ漫画を描いている。しかし、その経験をこの作品に活かすべきではなかった。短編ギャグ漫画であれば露骨なガワを用意して中身を典型から外すことが容易であるし、実際作者も2巻巻末についているギャグ漫画ではヒーローをクズ気味に設計できたりしている。とはいえ、ファンタジーバトル漫画の連載で初めからそれをやるのは難しいだろう。結局、作者のキャラクターデザイン能力の欠如等々がこの漫画にとてつもない安直さと空回り感を与えていると言わざるを得ない。というかどっちかっていうとコロコロなんだけど、2003年のジャンプってどういう雰囲気だったの?

 

とまぁケチをつけてきたが、この漫画で重要なのはそんなところにあるのではない。いや、安直さと空回りは本質的なのだが、読者の側でそれをプラスに転じさせないといけないのである。それさえできれば、先述したような難点の数々はえも言われぬ快楽と安心感を提供してくれるものへ一変する。たまに「ワンピース」みたいなコマあったりしてめちゃくちゃいい。

「ワンピース」みたいなコマ

「ワンピース」みたいな設定

ある種の空回り感を説明する意味でも、最後にこの漫画で最も有名なコマ(というか、そこしか知られていないコマ)に触れておくべきだろう。それが次である。

実際はページ真ん中でいきなりキレてテンポをぶった切っている

これだけ見ると全く意味不明だが、一応文脈はある。村の少女・ユキに世話になった鬼・ユウヒは、ユキと「オムスビを1つくれるたびに村を襲う獣人を1匹倒す」という約束をすることになる。しかし、鬼の一族の寿命は短く、ユキは残り少ない命を村の警護だけに使うユウヒを心配する。そんな彼女に主人公のサンタが、オムスビをあげることが実質的にはユウヒの枷になっていることを示すために放ったのがこのセリフである。

文脈込みでもまぁまぁ浅いのはともかく、このコマは単体で見るより最終話の描写と合わせた方が味が出ると思う。ニャージ一味を倒し、ユウヒはサンタとともに旅に出ることを決意する。下はそこにユキがやってきてサンタたちにオムスビを渡すシーンである。

オムスビを渡すことがユウヒを縛るとサンタに教えられたユキは、オムスビを渡さないことで門出を祝福する。この様子を見たサンタはもちろん……。

 

なんでお前がわかってないんだよ。

 

ここが『★SANTA!★』一番の笑いどころだと思うのだが、あまり言及している人を見たことがない。この手の漫画はネットがなければあまり広まらないが、広まったら広まったでパッと見衝撃的なシーンだけ先行して周辺部が置き去りにされちゃうんだなぁ。まぁ広まってもみんな読まないのはわかるけど……。

有名な打ち切り漫画が読みたかっただけなので雑に終わらせるが、総合的な読漫画体験としては悪くなかった。そういう方向性の漫画が好きな人は買う価値があると思う。

 

いやー、ブラックフライデーだかなんだか知らんが7割還元されてよかった〜。