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京大漫トロピーのブログです

【12/21】Present for me 石黒正数短編集をよんで

こんばんは。ピラタスです。
このブログを読んでいる新入生がいるとしたら、「ピラ……誰?」となることは間違いないくらい、近頃は例会に行っていません。家で漫画を読んでいるということもなく、会誌にはランキングすら提出しないという有り様。
漫トロピーは漫画読みサークルであり、漫画を読まない人間は漫トロ辞めろと僕自身思っているので、あんまりこういう現状が続いたらお暇いただこうと思います…(というかランキング未提出の時点で非会員なのでは?)
なんにせよ漫画を読まない上回生は正しい意味で老害という気がしますが、それはともかく、未だにこうして会員としてアドベントカレンダーの打順が回ってくるあたり、有り難いことだなぁと思います。

さて今回のテーマは「プレゼント」ということで、石黒正数の初期短編集『Present for me 石黒正数短編集』の話をしようと思います。
石黒正数といえば、『それでも町は廻っている』で知られる漫画家ですが、先日発表された「このマンガがすごい!2019」で新作『天国大魔境』がオトコ編1位を受賞しましたね。

天国大魔境(1) (アフタヌーンKC)

天国大魔境(1) (アフタヌーンKC)

京大漫トロピー会誌2019秋号では全体13位だったみたいです。
それ町」とは毛色が異なる作品なだけに、今後どうなっていくのか注目ですね。


今回取り上げるのはそんな作者の初期短編集『Present for me 石黒正数短編集』です。

Present for me 石黒正数短編集 (ヤングキングコミックス)

Present for me 石黒正数短編集 (ヤングキングコミックス)

7点収録されており、デビュー作品である「ヒーロー」(2000)を除けば、その他はすべて2002年~2004年に発表されたものです。

全体としては、コメディチックで軽快なテンポの作品がほとんどですが
表題作である「Present for me」は
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黒作品には珍しくしんみりとした、そして最後には感動的な余韻を残す話になっていたり、また別の作品では
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コメディというよりはギャグに全振りだったりします。

面白いと思ったのは第4話の「カウントダウン」で


↓以下ネタバレ

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優勝賞金1000万円の映画コンクールに向けて作品の案を練る映画部の部員たち。テーマは「人類滅亡」
一人一人、3・4人ほどが自身の案を説明していくが・・・
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結局は、「案を練っている平和な部活動の様子」を撮影した映画であったというオチ。
なんだけど、
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なぜか優勝したらしいお金を燃やしている…
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というのも、UFOが襲撃して人類は滅亡寸前になってしまっていた……という、いわば「事実は小説より奇なり(映画だけど)」的なオチ。

お金燃やす説明にはなってへんやん

というツッコミはともかく、この話の面白いのは、まず説明したような二転三転するトリッキーな展開、に加えて、短い作中に多くの小ネタや伏線が仕込まれているところだ。
たとえば、コンクールに出した映画は低予算なのが想像がつくんだけど、冒頭で「部費は少ないので大層なものは作れない」と説明されていたり、最後のUFOのオチも、途中部員が案を出していく中で「隕石衝突はありがちすぎる」と却下されていたり。
そういったちょっとした話のつながりが感じられて、スムーズに読み進められるし、一種の気持ちよさを感じてしまう。


んだけど、ちょっと物足りない・・・


なんなんだろう、と思って第5話・6話と読み進めると分かる。5・6話はともに起承転結の付いたコメディ、という感じで、6話なんかは短編の中でも最も「それ町」に近い雰囲気を感じるのだが、両方面白い。何がって、会話劇が面白いのだ。

第4話に関していえば、移り変わるトリッキーな場面展開で読ませる力があって、終盤そういったものが回収されるのは魅力だが、読んでいる最中の段階では、各々の場面は正直平凡なものだった。「部員が作品案を提示する」という物語の都合上作者の魅力である軽快な会話劇が展開出来なかったんだなと感じる。


そういう点で、わたしも「それ町」のファンの一人だが、「それ町」は持ち味である会話劇を十分に発揮しつつ、巧みな場面展開に小ネタが数多く仕掛けられているという点で面白かったと思っている。


天国大魔境は、これまた作者の武器である軽快な会話劇が、物語の世界観もあって繰り出せていないが、どうなるだろうか……。

現時点では、正直よくわからないまま読み進めている私だが、今回短編集を読み直し、「終わってみれば、練りこまれていて面白い作品だったなぁ」と言っている未来の自分が見えた気がした。