【12/4】ダメ学生は石川啄木の夢を見るか?
こんばんは。アドベントカレンダー4日目はレニがお届けします。今年のテーマは「プレゼント」ということで、何か人からプレゼントされた漫画がなかったかなあと本棚を探してみると……ありました、『坊ちゃんの時代』。高校時代に「新装版が出たから古いのプレゼントするよ」と恩師から頂いた代物です。
- 作者: 谷口ジロー,関川夏央
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2016/02/15
- メディア: Kindle版
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坊っちゃんの時代 : 3 かの蒼空に (アクションコミックス)
- 作者: 谷口ジロー,関川夏央
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2016/02/15
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石川啄木はクズです、と言うと首を傾げる方もいるかもしれませんが、騙されてはいけない。まずあの写真がズルい。純朴で、どこか幼さを残しながらも、しかし世の中を達観しているかのような遠い目をしている、あの写真。こいつのせいで脳裏に超然としたイメージがこびりついてしまうんだ。そして結核で夭逝するのもまた、詩人特有の儚さを演出しやがる。
そろそろ内容の話をしましょう。この漫画の舞台は明治42年の東京ですが、そこで描かれるのは、真面目に仕事もせず、かといって文学に取り組むわけでもなく、ただただ放蕩の限りをつくす啄木の姿です。酒を飲み、女を買い、北原白秋に遊びを教え、金が尽きれば給料を前借りし、あらゆる友人に金を借りかつ踏み倒し、年収の3倍以上の借金を抱えながら、厚かましくも我が身の不遇を一丁前に嘆いてみせる。明治時代の活気あふれる激動の雰囲気の中でただ一人、怠惰なダメ人間の姿が描写され続けるのです。さらに厄介なことに、こいつプライドだけは人一倍強い。腐っても天才、故郷では神童と呼ばれ、20で詩集を出した自負がある。だから酒を飲みながら酒に溺れる自分を自己弁護し、女を買いながら買われる女を見下し、上手くいかない自分に対する鬱屈とした思いを気障にもローマ字で日記に書き綴るのです。一体、プライド高い系ダメ人間以上に憐れなものがあるでしょうか。
その才能を文学で生かせば良いものを、その浪費癖ゆえ入った原稿料を一日ですっからかんにするから続かない。むしろその才能が生かされるのは友人に金をせびる時です。腐っても天才、読んだ人が金を貸さずにはいられないような困窮の手紙を書くことができちゃうんだから困ったものだ。そんな破綻した生活を送りながら、「おれにはなにができる?」なんて一丁前に嘆いてみせる。そんな彼も流石に自分で自分が嫌になることはあるようで、とうとう思い詰めた顔でカミソリを手に取るんですね。しかし彼はプライドこそ高いものの結局は小心者なので、その刃で首を掻っ切るなんてことはとてもとても出来やしない。じゃあ何を切るのか。手首? いやいや天才石川啄木が我々凡人の発想をするわけないでしょう。
乳首です。さすが天才は考えることが違うねえ。リストカットならぬニプルカットとは恐れ入った。あんたには敵わねえや。
・・・とまあ石川啄木について茶化しながら書いてきたわけですが、ふと我が身を振り返ってみれば、幸いにも京都大学に入学しながら、そのリソースを生かす気もなく、勉学に身を入れる気もなく、でも一丁前に京大生としての自負はあり、夜更かしと絶起を繰り返し、友人にレジュメを嘆願し、教授に単位をせびり、将来から目を背け続けるダメ学生。おいおい啄木の寝言を笑ってられねえぞ。そもそも啄木は僕の年齢で詩集出してんだ十分立派じゃあないか。
あとがき曰く、「啄木のような性格、生活態度の青年は二十年前にもいたし、現在もいる。」我が恩師がこの本をプレゼントしてくれたのは、ダメ学生への警鐘だったのかもしれません。