mantrog

京大漫トロピーのブログです

East Side Storyの話

 醤油です。先日、今年の漫画1位が決まってしまいましたね。
 え?わからないの?

 いちご100% East Side Story』に決まっているでしょう。
www.shonenjump.com

 2002年から2005年にかけて週刊少年ジャンプで連載されたラブコメの金字塔『いちご100%』。その続きが、12年越しでやってきたのです。
 まず、『いちご100%』正編の内容をざっと説明します。過去の会誌(Vol.17)に載せたあらすじを一部改変したものです。

真中淳平は映画監督を夢見る冴えない中学3年生。ある日、立ち入り禁止の屋上に出たところ、空から美少女が降ってきた!? 夕日を背景にスカートが捲れ、いちごパンツが覗く。そんな姿に一目惚れした真中は、彼女の正体を追い求める。謎の美少女の正体は東城綾。普段は三つ編みおさげに眼鏡といった地味な容姿の、真中のクラスメイトである。ところが、その正体を学園のマドンナ・西野つかさと勘違いした真中は、玉砕覚悟で西野に交際を申し込み、なんと快諾されてしまう。純情少年が西へ東へ、美少女たちに翻弄されるラブコメディ。

 こんな風に紹介されてもいまいちピンと来ねーよ、と思うかもしれません。でも大丈夫。
 なんとジャンプBOOKストア!で1~3巻が無料で読めます。
jumpbookstore.com

 そして少年ジャンプ+では、4月28日から1巻ずつ順に単行本が無料公開されています(※一日1巻のみで、翌日以降は有償になります)。
shonenjumpplus.com
 5月1日は4巻が無料公開中。つまり今日から追っていけば、丸々全巻無料で読める訳です。最高。
 うっかり読み忘れたら、大人しく買うか、漫トロの例会に来ましょう。僕が貸します。

 さて、これで大事なお話は終わりです。宣伝のついでに、続編1話のレビューを少ししますね。ここからはネタバレてんこ盛りなので気を付けてください。



 * * *



 正編での恋愛ゲームに敗北した東城綾にスポットライトを当てた続編「East Side Story」。正編で見られなかった東城エンドが果たしてどのように実現するのか。物語のはじまりは、東城が大学2年生の春。166話と最終話の間に横たわる空白の4年間が、いま明らかになるのです。

 とある古本屋。東城の処女作『夏に歌う者』を読み、涙する彼が、この「East Side Story」の主人公である中間少年だ(笑っていいゾ)。冷やかしに来た友人・外山に涙を茶化される傍ら、一人の女性客が脚立に乗って書棚の本に手を伸ばす。その脚立は古いので危ないと、中間少年が止めようと駆け寄るも、一足遅く脚立は折れてしまう。

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 そして少女は、いちごとともに降ってきた。

 1話の紹介はここまでにしておきましょう。

 中間少年は紛れもなく真中淳平の後継者です。ガバガバアナグラムも真っ青の安易なネーミングやキャラクターデザインは勿論のこと、空から降ってくる少女との遭遇、いちごパンツへの関心、純情さに鈍感さ、どこをとっても真中淳平の要素ばかりです。私立の女子大生である東城への嫉妬まみれの妄想の描写は、正編で真中が西野へ抱いた妄想を髣髴とさせます。
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 これは同時に、東城が、初期の真中にとっての西野、つまり主人公より成熟した女性であることも意味しています。しかし、その東城が中間少年を恋愛対象として見ているかというと、さっぱり見ていないのです。1話終盤、東城は、ふとしたはずみで中間少年を「真中くん」と呼び間違えてしまいます。そして、今まで中間少年に真中の影を追っていたことをはじめて自覚した彼女は、目に涙を湛えて中間少年の前から走り去ってしまうのです。そう、彼女はいまだ真中に恋心を抱いていたのです。
 さて、こうしてできた三角関係。少年(中間)と、年上の女性(東城)、そして乗り越えるべき存在である年上の男性(真中)。この古典的な三角関係が、どのような結末を迎えるのか。実は既に暗に示されているのです。

 それがこれ。
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 ツルゲーネフ『はつ恋』
 
 青空文庫で読めます。ツルゲーネフの半自伝的な小説で、16歳の頃の初恋についての回想を、主人公が手記に綴ったという形式になっています。
 主人公のウラジーミル・ペトローヴィチは、21歳の少女・ジナイーダに恋心を抱きます。しかし、ジナイーダは別の男性と恋に落ちます。その相手は、あろうことか主人公の父だったのです。
 主人公は父とジナイーダの逢瀬を二度目撃し、それを通じて己の愚かさと勘違いを痛感します。そして数年後、ジナイーダがまた他の男性と結婚したことを知った主人公は、彼女を訪ねるのですが、数日前に彼女は急死していたのでした。
 これが滅茶苦茶雑なあらすじです。ちゃんと知りたい人は実際に読むなり、Wikipediaのあらすじでも見てください。

 構図がぴったり同じなんですよね。そこから考えると、「East Side Story」が本当に東城エンドになるとは限らないのです。
 『はつ恋』のヒロインであるジナイーダは、終始主人公には振り向かず、父に激しい恋心を燃やします。別の町へ引っ越した主人公一家を追いかけて、主人公の父に鞭で打たれて追い返されるほどの執念です。主人公は、自分より優れた存在である父からジナイーダを略奪しようとは考えもせず、ただ己の無力さや愚かさを嘆くばかり。真中の影を追う東城はジナイーダに、真中の生まれ変わりのようでありながら、映画監督を志さず、読者に過ぎない中間少年はウラジーミルに重なります。また、東城の真中への恋心が消えないであろうことは、1話の導入、『夏に歌う者』の引用で裏付けされています。

彼女は知っていた 全てをさらい忘却の彼方へと運んでくれる時の流れでさえ 彼女の思いを変えることは出来ないのだと——

 ここからの展開としては、中間は東城へアタックを掛けるも玉砕。真中と東城の映画を見ることで、東城の真中への思いを痛いほど知り、「敵わない」と打ちのめされる、みたいな感じになるんじゃないでしょうか。「East Side Story」は東城エンドではなかった。ネットでは再び東城派の悲痛な叫びがこだまする。楽しみですね。

 最後に、『はつ恋』の主人公の父がジナイーダを鞭で打つシーンについてですが、

肘までむきだしになっていたあの白い腕を、ぴしりと打ちすえる音がしたのである。

ジナイーダは、ぴくりと体を震わしたが、無言のままちらと父を見ると、その腕をゆっくりと唇に当てがって、一筋真っ赤になった鞭のあとに接吻した。

 赤と白のコントラスト……

 これは……いちごパンツですね(悪いオタクスマイル)。

 東城がいちごパンツを覗かせているシーンを見て黒鷺が「いやいや。トラウマやろ。パンツ全部捨てろや」とか言ってたけど、こういうことだよ。『これが恋なのだ』。
 ちなみにジナイーダとのファーストコンタクトの舞台は、エゾ苺の茂みに囲まれた空き地だし、やっぱり東城=ジナイーダ。
 よって『いちご100% East Side Story』は今年のランキング1位(Q.E.D.)。