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京大漫トロピーのブログです

【12/24】裏アドベントカレンダー4日目。桜井梨穂子編①

桜井梨穂子編 第1章「オモイデ」

醤油:4人目、純一のおさな馴染み・梨穂子編です。
QP:ウォーミングアップ出来てますか?
ミシ:もちろんです。早速、観て行きましょう。
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(梨穂子「2年前の12月、わたしは、おさな馴染みの純一から突然お買ものに誘われました。もうすっごく嬉しくて、デートきぶんで出かけたら、実は純一が好きな女の子に贈るクリスマスプレゼント選びに付き合わされただけだったんです。わたし、ガッカリしちゃって。プレゼント選びは、それでそれでとても楽しかったんですけどね。でも、結局その子と純一はうまく行かなかったようで、後からそれを知ったときには、自分のことのように悲しくなりました。あの頃も今も、わたしはずっと純一に片想中なんです」)
ミシ:うおおおおおおおおおおおんっ、梨穂子ぉおおおおおおおお!
QP:のっけから不憫やわぁ……。
醤油:冒頭、アマガミの世界観が構築されたXデーよりも前、梨穂子のコンフェッションから始まります。声は新谷良子さんですね。「ひだまりスケッチ」の沙英さん。
QP:これ、誰に宛てた告解なんでしょうか?
ミシ:親友の香苗さんや、茶道部の先輩2人にでしょう。
醤油:純一への好意を明言したか否かはともかくとして、日常会話の中、それとなく相談はしてるでしょうね。したがって、梨穂子をとり巻く周囲の人間が、純一への恋慕をあらかじめ察した状態で2人の話はスタートします。
(OP)
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ミシ:コルクボードに純一との歴史を貼りたくってる梨穂子、涙ぐましくて、揺さぶられますね。
醤油:あ、鶴屋さんの声が聞こえる。
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(あさ。寝坊した梨穂子は、親友の香苗に叩き起こされる)
ミシ:『茨姫』ですね。
QP:え?
醤油:「眠れる森の美女」のことです。王子のキスで目を覚ますんですか?
QP:香苗さんが王子?
ミシ:否。このシーンのみを参照すると、一見そうとも思えるんですが、香苗さんはあくまでも、子どものできぬ王さまと王妃に、お姫さまが一人生まれることを予言する「蛙」の役です。
醤油:両生類。みずと陸との間を往来する者。意識と無意識を繋ぎ、或は無意識内より意識界へと出現してくるあらたな可能性を示唆する存在ですね。
ミシ:香苗さんのロールはさておき、この「蛙」の予言通り、王と妃の間に子が生まれると、12人の仙女を招き宴が催された。仙女達はそれぞれ「一人は徳を、もう一人は美しさを、三番目は富を」と云ったように、誕生した姫へ善意の贈りものをするが、招かれざる13番目の仙女が、宴に呼ばれなかった報復として「死」を贈ってしまう。
QP:天道の十二宮に示されるように、12は完全数としての意味が強く見出されます。それらの完全なものに、一つの異質な悪・13番目の因子が侵入することで「茨姫」の話は進展を見せるんですね。
醤油:13と言えば、円卓の……
QP:それはもう、中多編で言及したでしょう?
醤油:すみません。
ミシ:贈られた死・「つむの一突き」の呪詛は15の年齢になったとき発動し、姫を百年のねむりにつかせた。
QP:ははぁん。言わんとしてることが掴めてきましたよ。15歳。中学3年生。2年前のクリスマス、人知れず純一に失恋し、純一の側も失恋した例の事件が、梨穂子にとっての「つむの一突き」となったんですね。そして、梨穂子は現在に至るまで2年間の精神的な休眠状態となる。
醤油:その「つむの一突き」によってもたらされた「休眠状態」とやらが、主に純一との関係に見出され、これまで2人の関係性の発展を阻害してきたのか。純一が押し入れにひき籠もった同時期、梨穂子もまた冷凍睡眠されてたんですね。
ミシ:ここでもう一つ注目すべきは、梨穂子が「怠惰」である点です。2年前の決定的な事件よりも以前、梨穂子と純一の関係性は、おさな馴染みの延長線上に生じた緩やかな好意・唯一性で保障されてあった。ところが、純一に好きな女性ができることで、その安全神話は崩壊してしまう。
QP:この純一が失恋した女性は、これまでさんざん議論の俎上に上った、母性の有する否定的な側面ですね。あれから2年が経つと言うのに、未だに純一のこころを捕らえて離さず、その全てを呑みこんで無に帰さんと追ってくる。
ミシ:これまで意識が依存してきた規範に頼れなくなった梨穂子ですが、すると、通用しなくなってしまった規範に反目するものが無意識内に形成されます。この反目のために本来、無意識から意識へ流れる筈の精神エネルギーの逆流が生じ、梨穂子は「怠惰」の状態に陥った。
醤油:本人の生来的な性質もあると思われますが、それにしても些か頓馬ですからね。
ミシ:そして、この退行現象に耐え、その頂点に達すると、再びエネルギーの流れの反転が生じ、無意識内で培われた創造的な内容を意識内へともたらします。上の画像。母に抱かれた赤ん坊のようにまるまった梨穂子が、無理矢理目覚めさせられる構図は、自己実現への十全な準備状態が整って、純一との間にあらたな関係性が築かれることを暗示するのです。
QP:おさな馴染みの先へ進むために、梨穂子は一旦「死」を体験しなくてはならなかったんですね。
醤油:そうした観点をふまえた上で観て行きましょう。
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(寝ぐせを直そうとする梨穂子。香苗「それにしても最近遅刻多すぎだよ~?」)
ミシ:やはり、この寝ぐせは「これから変革がはじまるぞ」と言う霊感を表してるんでしょうね。
QP:遅刻の多さや忘れものは、精神エネルギーの逆流を如実に示してますね。
醤油:どうしよう! どうしよう~!
ミシ:可愛ええな?
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(忘れものをとりに帰ったために遅刻しそうになる梨穂子。ショートカットを試みるが、金網にひっかかって前にもうしろにも進めなくなってしまう。そこに偶然、純一が現れる)
ミシ:あああああああああああああ、可愛すぎる~!
(純一「落ちつこう、梨穂子」)
醤・QP:だってさ、ミシェル。
(おちょくりながらも、なんだかんだで、おさな馴染みの窮地をすくう純一であった。純一「身体のちからをぬき、うつ伏せになれ」)
ミシ:身体のちからをぬき、マントラを聴くのだ。全てを委ねよ。
QP:一体どうしたん? この人。
醤油:I have no idea. ところで純一君、パンツ見えそうだったのに全然意識してませんでしたね。
QP:これが森島先輩とかでしたら、穴に嵌まったのを見た瞬間大興奮でしょうね。
ミシ:身体的な性差はそれなりに意識してますよ。ただし身内補正で、動悸を感じる閾値が通常よりも高く設定されてしまってるんです。
(なんとか救出され、ほっとむねを撫で下ろす梨穂子。梨穂子「ふにゃぁ~」)
醤油:ふにゃぁ~。
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(梨穂子「はっ、たすかった! バンザーイ!」)
ミシ:バンザーイ!
醤油:バンザーイ!
QP:バ、バンザーイ!
ミシ:最高ですね?
醤油:ええ、全くです。
QP:皆の知能レベルが退化してる。
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(体育の授業。高跳びに挑戦する梨穂子。しかし失敗してしまう)
ミシ:まだ跳べません。
QP:余計なウェイトありますからね。
醤油:そう言う話じゃねぇんだよ。
ミシ:醤油君。この人、敵です。
QP:すみませんでした。二度と口にしません。
ミシ:許しましょう。
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(昼。菓子パンを次々と胃袋に収める梨穂子。見兼ねた香苗がエアーダイエットを提案するものの、当の梨穂子は「あしたからやる」と言う)
QP:この子、美味しそうにごはんを食べますね。高評価ですよ。
醤油:「あしたから」と言って、目を逸らすから、他のヒロインにも一人遅れをとるんですよ。
ミシ:来たるべきときのためにカロリーを蓄えておく重要性を、本能で感じてます。なまじ共に過ごした時間が長くなると関係性は硬直し、変革に莫大なエネルギーと時間を要するようになる。それを賄おうとしてるんです。
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(ダイエット復活の理由を純一だと指摘され、焦る梨穂子。逡巡ののち「よし、きょうからがんばる!」と決意をあらたにする)
ミシ:チャンスは来たれり。躍進の時間です。
醤油:狼煙をあげろぉ!
QP:2年A組に乗り込むぞぉ!
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(純一に、あさのお礼だと言って手作りのマフィンを贈る梨穂子。梨穂子「わたし、ダイエットすることにしたから!」)
ミシ:何度目かのダイエット宣言。
醤油:しかし、このたびのダイエットは一味違った展開を見せます。
QP:滾るなぁ。
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(親友の恋路を温かく見守るウメハラと香苗。その甲斐あって、日曜日に4人でスケート場で遊ぶ運びとなる)
QP:2人の優しさが身にしみます。
醤油:イイ画なんですけど、この2人はくっつきません。
ミシ:お似合なのに残念ですね。
(Bパート。カロリーを鑑みて泣く泣く、パンダココアではなくウーロン茶を購入する梨穂子)
QP:エライぞぉ。がんばれ。
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(しかし、茶道部部室に出向くと、先輩達の甘言に惑わされ、堪えきれずシュークリームを食べてしまう)
QP:ダイエット中だって言ってるでしょう? どうして、そう甘やかすんですが。
ミシ:過度な節食で健康を損なってしまうことを恐れてるんですよ。家族愛です。
醤油:百忍通意。重要な言葉ですよ。耐え忍んだら意は通じるんです。
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(古代ヘブライ語で「シューク」は「愛」・「リーム」は「オマジナイ」を意味し、元来は好きな人にプロポーズをするときに渡したお菓子であると、でまかせを吹き込む先輩。騙されてしまう素直な梨穂子)
ミシ:純真な梨穂子を弄びやがってよぉ。
醤油:部員不足はこの2人の人間性に問題があるからではありませんか?
ミシ:このままでは廃部ずら。
QP:そっちは廃校でしょ。
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(非常階段。ダイエット宣言をした手前、誰にも見つからぬよう隠れてシュークリームを頬ばる梨穂子を、純一は目撃してしまう)
醤油:この不合理さが堪りませんね?
ミシ:ええ、全くです。
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(一緒に下校する梨穂子と純一。途中立ち寄った公園で、ようちえんの頃の記憶に浸る梨穂子。しかし、梨穂子と純一の記憶は食違う)
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(純一「るんるんるんるんるるるりら。お姫さまになれ。キレイなお姫さまになれ~」美也「お姫さま、お姫さま、にししし!」)
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(純一「まんままんまんままんがまん。美味しそうなまんま肉まんになれ~」美也「まんま肉まん、まんま肉まん、にししし!」)
醤油:「オモイデ」ですね。
ミシ:グリム童話を連想させますよね。
QP:祈祷する純一。ぴょんぴょん踊る美也。この兄妹、狂ってません?
ミシ:おそらく純一のほうが正確な記憶でしょうけど、なんでもイイんでしょうね。
醤油:同じ日常を過ごした事実と、その過去を2人で懐かしむこと。それが、梨穂子の幸せでしょうからね。
(昔のようにすべり台を滑ろうとして、臀部が嵌まってしまう梨穂子)
QP:また嵌まってます。
ミシ:井伏鱒二の『山椒魚』のようですね。
醤油:は?
ミシ:大きく育ってしまったんですよ。身体も。純一への恋情も。
醤油:あ、ハイ。
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(お風呂上り、ストレッチを試みるが、身体が固すぎて満足に出来なかった)
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(翌日、純一は遅刻するであろう梨穂子を想って、あらかじめ鉄柵の穴をひろげておく。ひっかからず通過することができ、「ストレッチのお蔭だ」と喜ぶ梨穂子)
ミシ:これまでのダイエットが実を結ばなかった素因。それは、梨穂子の創造的退行が整っておらず、まだ時期尚早だったのもありますが、王子=純一の介在・協力と言う最後の要素を欠くものだったからなんですね。
醤油:純一からの受入れサインが出たんですね。三日坊主にならず、しっかり継続性を誓う姿勢もエライです。
QP:ええ娘や。
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(ED)
醤油:ええ歌や。好きです。
QP:恋はあせらず。
ミシ:「果報は寝て待て」と言うしね。
醤油:しかし、宇宙空間でたゆたう梨穂子の画、肉感的すぎやしません?
ミ・QP:同意します。