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京大漫トロピーのブログです

新歓毎日投稿企画【4/17】冬へと走り出そう

清盛です。春になりました。今年は、寒さがまだまだ残り、桜もあっという間に散り、ただ時の移り変わりを我々に突きつけてくるだけの最悪な春ですね。

この企画を追っている物好きな方々は既にお気付きかもしれませんが、漫トロピーには時間が進むことを想起させる春を嫌う人間が、僕含め多いようです。

しかし、本来春という季節は、満開に咲き誇る桜や、期待に胸を膨らませる新生活が連想され、「青春」という言葉のように人生においても最も価値ある時期を指す、ポジティブなものです。

ところで、価値あるものは売ることができる。春を売る。つまり、「売春」ですよね。

ということで、今回は売春するキャラクターが出てくる漫画を紹介したいと思います。


この漫画は、子供にも大人にもなりきれない年齢である19歳の三人の登場人物と、彼らがそれぞれに抱えた「秘事」を主軸にストーリーが進みます。

由樹(ユキ)
美人だが、常に男らしい服装・言動をしており、あだ名は「男装の麗人」。女性には見えないからと「ヨシキ」と呼ばれている。秘事は、高校時代の制服を着て自分が女であることを確認し、自慰にふけること。
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カイト
大学では女性からモテモテのイケメン。しかし、女装趣味を持ち、未果子への憧れから彼女と同じ服を来て街を練り歩く秘事を抱える。
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未果子
清純無垢なお嬢様。男性が苦手で、コンパに誘われても門限を理由に断るほど。しかし、裏では15歳と詐称し制服を着て援交売春に励む、ドギツイ秘事を持っている。
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由樹はカイトに、カイトは未果子に、未果子は由樹にそれぞれ好意を抱き、不幸な三角関係が形成されます。
序盤は、カイトの秘事のみが由樹との間で共有され、彼の恋心を知る由樹は二人が接近することを防ぐために実果子と恋愛関係を演じます。

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ストーリーが進むにつれ、各自の秘事はさらに共有の範囲を広げ、それを起点に三人の関係も変化していく。この複雑な人間模様を描き切っているのがこの漫画の魅力です。


さて、この三者は、「制服」「売春」「性別と外見の不一致」など様々な軸から切り分ける事ができますが、僕には時間の流れに対する未果子と由樹の対照的な姿勢が印象的でした。

未果子は、自分に最も「価値」があった15歳を演じ続け、少女という春を切り売りする。
しかし、少女として通用する寿命は残り少なく、時間の流れに焦り始める。
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一方で由樹は、制服を着ることでしか自分の女性性を確認することができなかったものの、カイトとの交流を通してかわいらしい服装をするようになり、自らの前に開けた女性としての可能性を肯定的に捉え、未来を見ている。
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少し結末に言及してしまいますが、この由樹によって、未果子は過去の呪縛から解放され、大人の女になること、時が進むことを受け入れ、老後という人生における「冬」の蓄えのために自らの春を売り続けることを選択しました。
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売春をやめる、という予定調和的な説教臭いラストにするのではなく、性を武器に自らの人生をしたたかに生きていく未果子の決断が描かれたのが、個人的には好きなポイントです。もちろん、カイトも彼なりの呪縛との向き合い方が描かれるので、気になる方は是非手にとって読んでみてください。

僕も大学生という可能性に満ちた春にいつまでもしがみ付き、時の流れの速さにおののいていますが、そろそろ冬仕度を始めねば……。