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京大漫トロピーのブログです

新歓毎日投稿企画【4/15】仲間が卒業して寂しいって話

ふれにあです。
僕はこの春から大学院1回生となったのですが、研究室も住居もほぼ変わらないので、生活に目新しさがあまりないです。
ただ、この春多くの先輩や同期の仲間が卒業して去っていったことに、今までの卒業シーズンで一番の寂しさを感じています。
新歓期にする話かこれ。

そんな中今回は、新生活に関する漫画の話をします。

「洗濯荘の人々」
https://www.pixiv.net/artworks/8647703

この作品はpixiv上で全話無料公開されている漫画なので、リンクからすぐに読むことができます。完結済みです。

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洗濯荘の人々

洗濯荘とは、現世とは異なる世界で、何らかの選択に失敗した人々が現世のさまざまな場所、時間から吸い寄せられて集まり、正しい選択をし直すために生活をする場所だ。それは人間関係に対するコンプレックスだったり、仕事をうまく受け入れてもらえない悩みだったりと、いずれもアイデンティティに関わっている。
管理人のアンフレットを中心に数名の人物が暮らしており、穏やかな生活の中でいつか正しい選択を見つけた人は洗濯荘から消え去り、元の世界に帰ることができる。

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管理人さん

洗濯荘の世界に対する思いは人それぞれだが、皆どこかトラウマのようなものを抱えていて、帰りたい人、帰りたくない人様々だ。主人公のハルカは現代日本から来た男子高校生で、俺様気質ながらどこか冷めた性格をしており、自信の「選択」に無自覚な、はじめは未熟さが残る少年だ。しかしながら、一人ひとりが何かを抱えている住人たちはハルカとの接触を通して自分の選択を見直し、やがてすっきりした表情で元の世界へと、次々と帰っていく。


登場人物それぞれが自分の中の葛藤に答えを見出して旅立っていく姿が涙を誘うが、今回は管理人をやっているアンフレットに焦点を当てて話をしようと思う。

アンフレットは洗濯荘における初期メンバーであり、西洋の御伽話に出てくるような風貌をしている女の子だ。幼く見えるが数多の住人を迎え入れ、帰っていくのを見届けてきた人物であり、実質的に生きた時間は見た目から想像できるより遥かに長い。
マーボーという鳥を連れ、いつも明るく振る舞い管理人として住人たちに食事を作ってくれるなどの献身的な彼女の姿には、つねに洗濯荘という場所に対する愛着が読み取れる。しかし、物語の中頃、とある事件により洗濯荘へ新しい居住者が入ってくることがなくなるという事実が発覚するところから、彼女の不安定さが垣間見えることになっていく。ハルカが住人達と接触し、住人達が意志を持ち直して去っていき住人の数がどんどん減っていくことに不安を感じ出したのだ。

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このコマの衝撃、数年経ってもずっと覚えてた

それまでの間、いつも数名の住人達に囲まれてきて、人の入れ替わりはあれど、最初から管理人として気づけば途方もない時間を洗濯荘で過ごしてきた彼女は、いつしかこの異世界での自分にアイデンティティを持つようになっていた。
(以下ちょっとネタバレがあります)


彼女が洗濯荘に来た「選択」の内容は他の住人とは少し毛色が違い、さらに彼女が帰ることになる経緯はもっと特殊なものだ。自分で決断するというよりは仲間から背中を押してもらう形で去ることを受け入れたが、洗濯荘の世界から消える瞬間までずっと残された住人のことを案じていた。
彼女を他の住人のしたような正攻法(?)で元の世界に帰すのは不可能だと、作者が宣言したようにすら思えた。
僕は読みながら、アンフレットは一体どのようにして自分の選択を受け入れ、決断を下すのだろうとずっと思いながら読んでいたが、結局このような力技で解決することになるとは思わなかった。元の世界ではとても幸せになれたようなので何よりだが、同時に彼女はこのような「事件による切迫」と「他者の介入による半ば強制的な追い出し」が発生しなければそれこそ永遠にこの世界にいたのだと思うと背筋の冷えるような気持ちになる。



さて、ここからは数年ぶりにこの漫画を読み直した僕の自分語りだが、僕自身大学に5年もいると、もう体も心も随分とここに染まってしまったなあという思いと、自分がここで過ごし始めた時から時間を共有していた先輩や同期の仲間が気が付けば大多数が周りにいなくなってしまったことに少なくない寂しさを覚える。上の画像のアンフレットみたいに、自分も最近同期の○○と会おうと思ったら「そっか、あいついないんだっけ…」となることが何度かあった(やばい)。
幸い大学は新人が年に1回入ってくるが、なんとなく取り残されている感を抱いているのは事実だ。院進の理由にいくらかのモラトリアム延長欲求が含まれていた自分としては、もはやハルカ君よりも(先輩の)アンフレットの方に多分に感情移入してしまうところがあり、彼女が去る契機があのようなものだったことに多少のもやもやが残る。


新入生の方には特におすすめの作品です。洗濯荘はどこか学生寮の雰囲気に近くて、今まで知らなかった未知なる環境に親しむ前に読むのと、去り際を意識する頃に読むのではまた読み方・感想が変わってくる筈です。