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京大漫トロピーのブログです

新歓毎日投稿企画【4/3】「あらすじの書き方」を考える

 こんにちはこんにちはこんにちは。現会計担当のシチョウです。突然ですが、当サークルの会誌についてご存知でしょうか。当サークルでは毎年2回会誌を発行しており、会員はサークル活動の一環として会誌製作に携わることになります。その中でも、あまり取り沙汰されることはありませんが、意外と面倒で難しいのが「あらすじを書くこと」です。会誌を読んでもらえれば分かりますが、会誌1冊につき50作程度の漫画のあらすじが載っており、各会員は少なくともその中の1作についてあらすじを書くことになります。サボれば他の人がやってくれます。大量に文章を書いたり文字起こししたりしなければいけない会誌製作において決して大きなウエイトを占める作業ではありませんし、そもそも漫トロでは漫画の読み方でも文章でも放任主義の土壌があるので、そのために書き方の指南がわざわざなされることはないんですが、かといってそのために「書けない人」が書くことを放棄したり、あるいは質の悪い文章を提出したりしてその代筆や修正に「書ける人」が追われるといった現状もいかがなものかと思うので今回は「あらすじの書き方」について考察を図っていきたいと思います。

そもそも何が「難しい」のか

 さて、「難しい」「易しい」というのが主観的な概念だということは受験勉強を経験してきた皆さんなら周知の事実でしょう(このページを見ている人の大半は京大生だと思っている)。問題集に「難しい」と書かれていた問題を「易しい」と感じたり、その逆の感覚を味わったことは誰にだってあるはず。ただし、問題集の作成者もなんとなく適当に難易度を決めているわけではないはずで、そこに一定の基準はあって然るべきです。ではその基準とは一体何なのか?個人的にその基準は「解答までの道筋が単純か複雑か」だと思っています。もっと言うと、「1つの発想で解ける問題」が易しく、「複数の発想が必要な問題」が難しいということになっている、と思っています。
 では、「あらすじを書くこと」の難しさとは一体何なのでしょうか。Wikipediaによれば「あらすじ」とは「物語や計画などの大体の筋道」だそうです。これだけ聞くとただ要約してるだけと一緒やんけと思われるかもしれませんが、実際は「要約」と「会誌に載せるあらすじ」は大きく異なります。まず会誌で取り上げられる漫画は大半が未完なので、筋道がわかっていない場合も多く、つまり何を筋道として書けばいいかわからない場合も少なくありません。また読み手の内容の理解を優先するwikipediaと違い、会誌では漫画の魅力の宣伝が優先されるので(あくまで僕がこう思っているだけです。考え方の異なる会員もいるかもしれませんが悪しからず。)、ネットで「あらすじ 書き方」と検索して上位で出てくるような書き方が通用しにくいというのもあらすじを書くことを難しくしているのでしょう。総括すると、会誌という媒体の特殊性のためにあらすじを書くことが難しくなっていると言えます。

先例に学ぶ

 では実際のところ、会員はどのように書いているのでしょうか。直近の会誌を見ていきましょう。2020年度のNFで初めて販売された会誌『京大漫トロピー:弐拾伍』では、あらすじがついた作品の数は全部で59作。うち2020年度に発売された漫画でランキングを作る「総合ランキング」の稿に載っているのは31作、「クロスレビュー」の稿に載っているのは28作でした。これらのあらすじ群をもとに、どういった書き方があるのかを一通り見ていきましょう。

最初・最後の一文

 あらすじに限らず、何らかの文章を書くならどのようにして始め、どのようにして締めるかは誰しもが気にすることでしょう。特に「最初の一文で読者の心を掴め」的な文言は皆さん飽きるほど聞いてきたはず。読者にその作品を惹きつけさせることを主目的としている「あらすじ」の最初の一文が特徴的なのは必然といえます。では、先ほど述べた59作のあらすじの最初の一文はどうなっているのでしょうか。それをまとめたのがこちら。

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 当然といえば当然ですが、漫画の内容について説明するというあらすじの役割上、最初にその土台となるメインキャラクターや舞台について説明するのが最もオーソドックスなパターンですね。特にキャラクターの心境の変化をメインに描かれそうなテーマである「新入生」班と海外BL・百合班の漫画は全てこのパターンでした。続いて多いのが作中の台詞を最初に持ってくるパターン。まず第一話にインパクトのある台詞を入れて読者を惹きつけようとする漫画が多く、また漫画を知ってもらうためには結局漫画自体に触れてもらうことが一番なので、漫画の中の台詞を拝借してそれを読者に真っ先に読んでもらうのもやはり有効な戦略でしょう。この他、作者が有名作家である『BURN THE WITCH』のように漫画の内容以外の部分で読者を惹きつけうる要素がある場合はそれを最初に持ってくるのも一つの手ですし、ただ説明から始めるのも味気ないし最初の一文に相応しい台詞がなかった場合は自分で引きのある文章を用意するのもアリでしょう。以上に分類できなかったあらすじは「その他」としました。

 ちなみに今回の会誌で個人的に一番好きな最初の一文は『望郷太郎』の「一匹の亡霊が破滅後の世界を徘徊している。」ですかね。作中で登場した言葉を使わずに端的にこの漫画を表しており、読者を惹きつけそうな一文であり、何よりオリジナルなのが評価できます。(追記:これオマージュみたいですね。教養の無さを露呈させてしまった。)

 続いて考えたいのは最後の一文についてですが、こちらで行うべきはまずは内容の総括、次にこれまで触れられなかった情報の補足になるでしょうね。印象に残る一言を最後に添えて読者の気を惹くという手も考えられます。字数制限が厳しい、あるいは上記の3要素が必要ないと考えるようなら内容の説明を最後の一文でも続けるのもよいでしょう。内容の総括+情報の補足、内容説明+総括など、合わせ技も数多くみられ、単純に分類できるものでもないので、今回は最初の一文のように円グラフにしません。どちらかというと着目したいのは表現ですね。ここでは好例と共に言葉選びについて考察していきたいと思います。

まずは総括面での好例について。

今宵もまた、人間と吸血鬼、二人だけの「よふかし」が始まる。

『よふかしのうた』のあらすじですね。正直今更タイトル回収を持て囃すのはダサいと言われかねませんが、今回の会誌に載っているタイトル回収では最も出来が良かったのとタイトル回収を自然にできたらかっこいいよね(正直これが自然かと言われたら微妙だが)ということで。あと単に「総括」といっても別に「××を描く〇〇譚」みたいなテンプレに沿う必要は別になくて、このくらいでいいということがわかっていただけたらなと思います。

続いて印象面での好例について。

――ところで今、君の後ろに立って一緒にディスプレイを眺めているのは誰?

『不安の種』のあらすじですね。古典的な手法といえばそうなのですが、観ているお前も一緒や!的なのが好きなので。ドラクエ ユアストーリー? 知らない子ですね。「あなたも〇〇してみませんか?」といった形で読者を巻き込む手法が印象を残す形としては最もポピュラーなようですが、これが一番出来がいいですね。漫画に恵まれている感は否めませんが。ホラー作品やもんね。

不安の種

不安の種

  • メディア: Prime Video

情報の補足面・内容説明面での好例は特にないので書きません。

どう「漫画の内容」を入れるか

 ここからは最初と最後の文以外について触れていきたいと思います。といっても「入れるべき情報に優先順位をつけろ」といった普通に要約したりあらすじを書いたりするときに言われることを書いても面白くないのでここでは会誌であらすじを書く場合にのみフォーカスしていきたいと思います。会誌でのみ通用するあらすじの書き方、それはズバリ「作品の世界観にあらすじを合わせに行く」ですね。直近の会誌では『忍者と極道』『大ダーク』『喧嘩独学』『あなたが甘くねだるまで』でこの手法が使われており、一目見てわかるレベルではないが作品の雰囲気は反映できているというレベルのものまで含めるとかなりの数に上ります。せっかく書くのなら単行本の背面に書かれているようなのと差別化を図りたいですし、単純に作品の世界観を読者にダイレクトに伝えることができるので、この手法は推奨していきたいですね。参考までに、下が『忍者と極道』のあらすじです。

決めようか、忍者 < ニンジャ > と極道 < ゴクドウ >、何方 < どちら > が生存 < いき > るか死滅 < くたば > るか!! 表は高校 < ガッコ> で浮いてる地味な高校生 < コーボー >、裏は日本 < この国 > を影から護 < まも > る必殺仕事人 < ダークヒーロー >、忍者 < しのは >。表は優秀な会社員 < エリートサラリーマン >、裏は組を牛耳る悪の皇帝 < カリスマ >、極道 < きわみ >。そんな二人が邂逅 < であ >うとき、江戸より続く 300 年の因縁 < 殺し合い > に終止符 < ピリオド > が打たれる!! 刮目せよ、漢 < おとこ > 達による生首 < クビ> と悲劇 < ドラマ > に彩られた命のやりとりを!!

名あらすじランキング

  こうして会誌におけるあらすじの書き方について一通り考察を図ってきたわけですが、こうなると気になるのが「どのあらすじが一番凄いか?」ですね!というわけで59作品の中から個人的に思う名あらすじトップ3を発表したいと思います。(というかこれがやりたかった)

第3位

BLEACH』の久保帯人が満を持してジャンプ本誌に凱旋! 自然ドラゴン保護管理機関「ウイング・バインド」に属する魔女の使命は、ロンドンに巣食う異形の存在ドラゴンを保護すること。新橋のえるとニニー・スパンコールは、新進気鋭の魔女コンビ。ある日、一般市民である彼女らの先輩バルゴ・バーグスに「ドラゴン憑き」の特質があることが発覚。一般市民はドラゴンとの接触が禁止されているだけでなく、とある異変を引き起こしてしまうため、バルゴは討伐対象となってしまい......? いつものオシャレポエムも満載だよ。

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か、かっこいい~

『BURN THE WITCH』のあらすじです。一見普通のあらすじに見えますが、3位に選出した理由はこのあらすじが『BURN THE WITCH』のあらすじを書く際に真っ先に考え付くであろうことを回避しているからですね。第一話の最初のページで「おとぎ話なんかクソでしょ」とだけモノローグで書かれたら誰だってあらすじの冒頭に入れたくなりますよ。そして、僕ならそれを軸にあらすじを書いていくと思うんですけど、たぶんこのあらすじを書いた会員はその形ではこの漫画の魅力は伝わりきらないと考えたんでしょうね。だからその案を大胆にも捨てて、メインキャラと舞台と最初の事件だけ書く最もオーソドックスなスタイルに切り替えた。そういったところの大胆さ、そして「久保帯人が贈る」や「久保帯人が描く」といった表現にしがちなところを「凱旋」という盛大な表現にする久保帯人譲りの言語センス、最後の一文から漂う読者が久保帯人に何を求めるか理解している信者っぷりを評価しました(信者並感)。

第2位

「春くんて......めちゃくちゃに可愛がってひいひい鳴かせてみたくなってくるんだよね...」「両手両足拘束して一晩中焦らすやつやりてぇ―......」「あ♡これヤバイ へんな扉が開いちゃいそう...♡♡♡」「雪だってむっつり変態ドSだし春くんなんて合法ショタじゃん 世界最えちの組み合わせ」「やあっべえメチャクチャにこねくりまわしたい...」「そうなってしまえばあとはもう―...♡ふふ♡うふふふふ...♡♡」「春くん...手足拘束して...おしり開発して...ぜ...前立腺...♡」エロ漫画界の鬼才ディビが贈る、全年齢向おねショタ純愛調教譚。

『あなたが甘くねだるまで』のあらすじです。このあらすじのいい所もやはり大胆さになるんでしょうか。他の世界観を合わせに行ったあらすじは基本的に構成は普通のあらすじと同じなんですよね。例えば上の『忍者と極道』でいうと、最初の一文は作中の台詞ですし、最後の一文は「刮目せよ」という形で読者を巻き込んでいます。それに対しこのあらすじはそのほぼ全てが作中の台詞で成り立っており、申し訳程度の総括しか説明パートがありません。そんな大胆な手に打って出ていながら、読者がこの漫画について理解すべきことは全て理解させているのがこのあらすじの凄いところですね。この台詞群で読者はこの漫画の雰囲気を「彼女の中の欲望が目覚め始める」といった形で説明して書くよりはるかに詳細に把握できますし、また作中の台詞選びのセンスもいいのでどんな形で話が進むのかがうっすらわかるのもこの漫画のあらすじが求められているちょうどいいラインをついていますね。この漫画のあらすじとしては模範解答であるといえるでしょう。

第1位

イカガワマリコは死んだ。シイノに一言も伝えること無しに突然と。「あんたはどうだか知らないけど私にはあんたしかいなかったよ」。シイノは悩み、罪悪感と疎外感、憎悪に苦しむ。なぜマリコは自分に一言も伝えることなく死んだのか。なぜ自分は両親の虐待からマリコを守ってやれなかったのか。「今の私にはこれくらいしかできない」―。シイノはマリコの遺骨を奪い、当てもなく走り出す。「だから行こうマリコ、海へ、二人で行こう」。シイノは逃避行の中で、マリコとの過去に思いを馳せる。二人はどこで支え合い、どこですれ違ったのか。彼女にとって自分とは何だったのか。新人平庫ワカが描く、人間関係の葛藤と向き合い、女同士の友情を力強く謳いあげるロマンシス。

『マイ・ブロークン・マリコ』のあらすじです。まず褒めるべき点は最初の一文のインパクトですね。「死」という刺激的な言葉を短文で挟むことで読者の目を惹きつける効果があります。そしてなんといっても評価したいのがこのあらすじの疾走感。たて続けに句読点を打つことで、本編を画で見ているのと同じようなダイナミックな感覚を読者に与えることに成功しています。先ほど触れた「作品の世界観に作品を合わせる」の亜種であると個人的には考えていますが、『忍者と極道』や『あなたが甘くねだるまで』のような作品内での台詞回しがふざけている漫画ほど大胆に合わせられない中で非常にうまく作品の雰囲気をあらすじで再現できています。説明する形だと「シイノは〇〇を決意」というように疾走感に欠けた表現となりかねない部分は台詞に切り替える鮮やかさも素晴らしいし、最後の一文でそれまでの内容を簡潔にまとめ上げる言語化能力の高さも評価したい。今年のベストあらすじがこれだというのに異論はおそらく出ないんじゃないでしょうか。

終わり

 一番やりたかったことをやったので、終わりです。ところでこの新歓企画には「春」を内容に絡めなければいけないという縛りがあるにもかかわらず、本稿には「春」の一文字は一切出てきません。でも大丈夫。今回のNFは春に開催されたので、今回NFで初めて刊行された会誌について主に扱っている本稿も「春」について扱っているといえます。異論は認めません。