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京大漫トロピーのブログです

「タバコの煙は主流煙より副流煙の方が有害物質が多く含まれています。」

はじめましてとっきーです。今年のお題は「パーティー」ということで何人かお酒について書いていましたが、そこから少しひねって私はタバコについての話をしたいと思います。
タイトルにもなっている上記のセリフは、岡村天斎が原作・監督・脚本を手がけたアニメ『DARKER THAN BLACK黒の契約者−』*1に登場するMI6のエージェント・ノーベンバー11のもので、

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ノーベンバー11、契約者としての能力は水分の凍結
この後に「発癌性の高いジメチルニトロサミンは主流煙が5.3から43ナノグラムであるのに対して副流煙では680から823ナノグラム。キノリンの副流煙にいたっては主流煙の11倍、およそ1万8千ナノグラム含まれている。つまり、実際は吸う人間よりも周りの人間の方が害は大きいのです。」と長ったらしいうんちくが続きます。アニメ史上でも他に類をみない嫌煙家であるノーベンバー11ですが彼は喫煙者でもあります。彼は「契約者」という超能力者なんですが、能力を行使した際に支払わなければならない「対価」*2が喫煙なのです。
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「対価」を支払わなければ「契約者」は死んでしまうらしい
ノーベンバー11のタバコが嫌いな喫煙者という矛盾したキャラクターには、岡村天斎のタバコに対する複雑な思いが現れているのかもしれません。岡村天斎は他にも嫌煙描写としてタバコの誤飲で赤子を亡くした「契約者」を登場させたり、更にアニメ『世界征服〜謀略のズヴィズダー』では自身が脚本をした第3話で筒井康隆の『最後の喫煙者』*3のパロディをしたりしています。一方でハードボイルドな文脈でくたびれたりダーティーなキャラクターがタバコを吸うシーンなど、喫煙に肯定的な描写もあったりします。肯定と否定が入り混じったこのタバコ描写は、両論併記する事でコンプライアンスに対してバランスを保っているということなのかもしれないし、もうビジュアル的にカッコいいという理由だけでキャラクターにタバコを吸わせることは出来ないということなのかもしれないし、健康被害を認識しながらタバコをやめられない自身への皮肉なのかもしれません。
ただタバコに対する風当たりは最近ますます強くなっていて、卑近では改正健康増進法の影響で7月から殆どの大学が禁煙になってしまい、京大の吉田キャンパスでも喫煙所の大半が撤去されてしまいました。酒などに比べてタバコが特に嫌われる理由はその依存性や健康被害よりも、やはり受動喫煙により「吸う人間よりも周りの人間の方が害は大きい」からではないでしょうか。実際にフィクションでも受動喫煙は強く意識されていて、例えば『とある魔術の禁書目録』では職員室で小萌先生が喫煙しているシーンで、学園都市では高性能な携帯式小型空気清浄機が普及しているので受動喫煙は無いと地の文がフォローしていたりします。また人前で喫煙する=周りの人を配慮しない悪人のアイコン、逆に禁煙・分煙する=周りの人(特に子供)を配慮する善人のアイコンという喫煙描写の使い方もされています。
翻ってわたし個人の話をすると、昔喘息だったのでタバコの煙は今でも苦手です。小学生の時に『DARKER THAN BLACK』を見てからは、ノーベンバー11に触発されて「喫煙者は全員滅んでしまえ」と思っていた時期もありました。ただ時間が経ってフィクションで他にもいろいろな喫煙シーンに触れて、さらに大学で何人か喫煙者の知り合いができたりしてタバコと喫煙者に対する態度は変わりました。やっぱり喫煙ってビジュアル的にカッコイイんですよね、2次元とか3次元関係なくそう思えてしまう。我ながら捻くれているように思えるが、健康被害を認識していてもタバコのビジュアル面にどこか惹かれてしまうのは、全部岡村天斎とノーベンバー11のせいかもしれない。
最後に締めとして個人的に喫煙シーンが一番印象に残った漫画として相田裕の『GUNSLINGER GIRL』を紹介します。あらすじはイタリアを舞台にテロ組織と闘う為に身体を改造された少女とその担当官が奮闘するというもので、厳しい現実の中で少女と担当官が心を通わせあって小さな希望を見つけていくというお話です。作中ではいくつか喫煙シーンが描かれているのですが、ある理由で禁煙した登場人物が物語の終盤で再び喫煙したシーンが今でも強く印象に残っています。
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*1:未知の領域「地獄門」(ヘルズ・ゲート)の出現と同時に「契約者」という超能力者が現れた東京を舞台に、契約者である主人公・黒(ヘイ)が「組織」のエージェントとして警察や各国の諜報機関と戦うというストーリー。特徴的な台詞回しや作中用語も相まって、個人的には厨二能力バトルアニメの金字塔だと思う。

*2:「対価」は飲酒やキスをすることだったり、折り紙を折るといった容易なものから、タバコを飲み込んだ後嘔吐する、指の骨を折る、年をとるなどの重いものまで様々。「対価」は能力バトルに彩りを与えたりする一方で結構ガバガバだったりもする。

*3:喫煙者が弾圧された世界で最後の喫煙者になってしまった小説家の男がそれまでの経緯を振り返るというあらすじの短編小説。筒井康隆自身も愛煙家であり近年の所謂嫌煙ファシズムに対しては否定的である。