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京大漫トロピーのブログです

【1/27】セイレン・常木耀編を観終えて

 セイレンの4話を観た。想定を超え、ショッキングな内容だった。僕は現在、覚めやらぬ興奮と、こころに刺さった小さな棘に後押しをされ、これを書いている。
 やはり、「セイレン」は「セイレーン」の密意であった。醤油君の指摘は正しかった。森島はるかが「水」のアマガミであったように、常木耀も「水」に深く関連するヒロインである。その証左に、主人公・嘉味田と常木のやりとりは作中、一貫して水場で行われる。
 まず第1話。常木は雨に濡れ、嘉味田の部屋への侵入を果たす。この雨は、以降2人の関係が進展を見せる契機となる。2話で嘉味田のジャージを纏った常木は、女子トイレの清掃をする。さすがにこれは悪趣味なジョークだとしても、夜食の後、2人が各々の事情に幾らか突っ込んだ問答をする密室は給湯室である。3話。男湯で混浴。ここまでで2人の距離が順当に縮まってきたことは、言わずもがなである。しかし、このあと。嘉味田への疑惑が浮上するシーンは、干上がったプールで行われる。(トイレ)→洗面台→浴槽→プールと、2人の関係はその容積を大きくしてきたものの、一旦「水」が失われるのである。このことは、2人の関係が暫く停滞することを示唆する。そして、4話。疑惑や不信感を晴らし、2人はあらゆる水の行きつく先、海へとやって来る。不覚にも、嘉味田の「常木さん、海に行こうよ。俺達も大人になれるんだ」と言う台詞には笑ってしまった。
 海中に押し倒し、嘉味田の耳を塞ぎ、キスをする常木。この構図こそ『オデュッセイア』で描かれるセイレーンそのもので、大興奮してしまった。常木耀編で、主人公・嘉味田はセイレーンの歌を聴こうとしたオデュッセウスである。嘉味田は、人を惑わし遭難・難破させるセイレーン・常木の歌声を聞き、(暴れ出し、)そちらへ向かおうとする。実際、嘉味田は常木の媚態に劣情を喚起され、ふり回される。夏季合宿で相互理解が進んだように見えて、当の本人も言ったように、実のところ、嘉味田の側は常木のことを何一つ理解しておらず、成長もなかった。その事実を、干上がったプールはあまりにも痛ましく表現する。しかし、オデュッセウスがキルケ―の忠告に従って船員に蝋で耳栓をさせたように、常木は距離を詰めようとする嘉味田の耳を塞ぐ。嘉味田と恋仲になることを拒絶し、あくまで嘉味田をマスト、輝日東の地へ縛り付けることで、最愛の人がその覚悟もなく、一時の劣情によって先走り、その身を滅ぼすことを回避させるのである。逆説的だが、嘉味田は常木当人に耳を塞がれることではじめて、雑音の混じらぬ「精錬」された常木の心の声を聴き、真の意味で恋に落ちる。
 物語の結末。『オデュッセイア』のセイレーンが海へ投身自殺したように、常木もまた大海へと身を投出し、遠く離れたスペインの地へ辿りつく。無論、これは嘉味田の存在によって旧来の常木が死んで、再生を果たしたと言うことである。嘉味田のほうはと言うと、縛り付けられた輝日東の地で、常木の本当の歌声に鼓舞され、管理栄養士と言う自分なりの道を見出す。そして5年後、嘉味田自身が(或は常木の側も)「精錬」された頃合、大人になった瞬間を見計らって、2人は再会を果たし、ようやく結ばれるのである。
 はぁ……。