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京大漫トロピーのブログです

【12/01】今年もやりますアドベントカ!!!!!!!!!

「クリスマスに読みたくない漫画」

はじめまして。第一回を務める、現会長の黒鷺です。
「クリスマスに読みたくない漫画」って、どないやねん。たぶんこれから、タイトルを多用に解釈した記事が書かれることと思います。各会員がどんな漫画を語ってくれるのか、非常に楽しみですね。
さて。「クリスマス」って、僕にとってはあんまり関係ないんですけど、世間は騒がしいし、社会は孤独を煽ってくるしで、なかなか漫画に集中できませんよね。そこで、「クリスマスに読みたくない」、夜に静かに、寒さを紅茶ででも暖めながらひっそり読みたい漫画をおすすめします。

ヤサシイワタシ

ヤサシイワタシ(1) (アフタヌーンKC)

ヤサシイワタシ(1) (アフタヌーンKC)

ヤサシイワタシ(2)<完> (アフタヌーンKC)

ヤサシイワタシ(2)<完> (アフタヌーンKC)

わりと裕福な家庭で育った元全国レベルのテニス選手の芹生と、複雑な家庭環境の中育った「よくいえば子供」という奔放な性格のヤエ。2人の大学生を中心とした、ジェットコースターラブストーリー。
どちらかの目線に共感することよりも、2人の間に生まれる化学反応的な関係性が読者の心を打つ。
「こういう人間って居るよな、こういう生きづらさってあるよなぁ」と、自分にどこか重ねてしまう。
特にヤエの、一貫した一貫性のなさにはほんとうに胸が痛む。
プロの写真家になりたいという芹生の発言に「あたしはマジなんだよね! だからねっ マジな人って スゴイ嬉しんだよね!」と心から喜びつつ、丁寧な写真の技術については「だってメンドクサイんだもの」「自分で焼いてるカメラマンなんて居ないんだよ」とボヤき、海外に住んで現地の人と仲良くやりながら写真を撮って暮らす「なんとなくカッコいい」生活を志向し、「あたし広告にも興味あんだよね」と思ったら「広告はもういいっつーか」「廊下まで応募作あふれてて」「なんで賞とってんのかわかんないのもあったなー」「あたしがホントにやりたいのって ファッション関係なんだよね」と手のひらを返す。
そういう姿勢は恋愛においても同一で、ヤエは「一番」と向き合うことから逃れるために「二番目」で満足する。そこにはひたすらな承認欲求*1があって、周囲の人間に、芹生に、新城に、父親に、認めてもらいたいだけ。虚ろな生き様にすぎない。
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意識的にせよ無意識的にせよ人にアピールせずにはいられないし
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人の話は聞かないし
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適当な言い訳ついちゃうし(突然の競争社会というワード、ほんま草生える(生えない))
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共依存素質もあり、
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まぁ、うまくはいかない。

でも、そういう彼女の生き方は、果たして悪いものなのか?
目指す姿で生きられない弱さ、承認を求めずはいられない飢えは、責められるべきものなのか?
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膨らみきった風船のような、綱渡りで風が吹いた時のような、不安の崖っぷちに立っているような人と、自分と、どう生きていくべきなのか?
優しくなりたい。

ヤエのことばかり書いてしまったが、これは、芹生の
「オレねェ …あ テニスの話ですけど やってるときはやってるときで ケガ多くてやんなったし 辞めるって決めた時も 周りの奴らが続けてるの 見てるのも きつかったんすけど 一番やな記憶って 大学の一年目なんすよ」
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「いいことを いいって言っちゃって やり始めるしか ないです」

に、完全にやられてしまったからだ。停滞している場合では、ない。

2巻完結ながら噛みしめるべき部分が非常に多い作品、クリスマスの喧騒に流されて消費するのは勿体ないです。クリスマスには読みたくないですね。なお、京大漫トロピーvol.11には『ヤサシイワタシ』を含む漫画読みっぽい漫画を多数レビューした「漫画読み道」という個人寄稿が掲載されております。興味がおありの方は『ランキング公開&通販のお知らせ』の記事をどうぞ。
お読みいただきありがとうございました。
(黒鷺)

【余談】
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安芸さんの立ち位置は、ほんまに大事。

*1:ヤエが他者(特に、「好まれたい」他者)の目を強く意識していることについては節々で描写があり、バックパッカーの表面的なケチ臭さを批判するときに芹生が居ることに気づいて顔を赤くする場面、ホームレスのポートレートを提案した際そっと芹生の顔を伺う点など。