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京大漫トロピーのブログです

【12/16】クリスマスと愛

12/16 担当の電球と申します。よろしくお願いします。

いやぁ、もうすぐクリスマスですね。
クリスマスといえばサンタクロース。
サンタクロースといえば、彼の由来の一つとされるグリーンランド
そのグリーンランドを発見したとされているのが、赤毛のエイリーク。
そんな赤毛のエイリークの息子、レイフ・エリクソンが登場する漫画と言えば?
そう、ヴィンランド・サガです。

ヴィンランド・サガ(1) (少年マガジンコミックス)

ヴィンランド・サガ(1) (少年マガジンコミックス)


クリスマスとこうも深く繋がっている『ヴィンランド・サガ』を、クリスマスに読まない理由がありましょうか?
いや、ない。読みましょう。

- あらすじ
時は11世紀初頭のヨーロッパ、ヴァイキングが各地を侵略していた時代。
アシェラッド率いるヴァイキング兵団で活躍する凄腕の少年がいた。
その名はトルフィン。
彼の目的は父の仇、党首アシェラッドへの復讐。
血で血を洗う戦いと略奪の中で復讐を糧として生きるトルフィン。
北海最強の戦士として恐れられた父が何故争いを捨て、辺境の地へ出奔したのか。
彼の遺した言葉「本当の戦士」の真意に彼は辿り着くことが出来るのか?
イングランド戦争という歴史の奔流は、彼の人生を翻弄していく…。
プラネテス幸村誠が描くヴァイキング叙事詩。

- ヴィンランド・サガの魅力
しっかりとした歴史考証の下、緻密な作画で織りなされる重厚な歴史戦記、戦闘の際のアクション描写、などなど質の高いエンターテイメントとして、この漫画はとても魅力的です。
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でも、自分にとってこの漫画にはそれ以上に重要なファクターがあります。
それが、幸村節です。

- 幸村節
プラネテスの頃から続く、幸村節とも言える作者の主張を織り交ぜた物語構成。
作品毎に特定のテーマが設定され、キャラクターがそのテーマに対して思索し、悩み、進んでいく様が物語上で描かれます。
舞台が近未来の宇宙開発であっても、11世紀初頭のヴァイキングであっても、今の私達に立ち上がってくるようなリアリティを感じさせてくれるのは、絵や考証の緻密さだけでなく、そこに人間の思索があるためだと私は思っています。

前作「プラネテス」で言えば、「愛」というテーマがありました。

プラネテス(4) (モーニングKC (937))

プラネテス(4) (モーニングKC (937))


他者との繋がりといったミクロレベルでの友愛の素晴らしさを説くタナベに対して、マクロレベルでのアガペーの実現に突き進むエゴイスト、ロックスミスという存在は非常に対照的であり、この両者に優劣を付けない辺りに作者の思索が感じられます。
特定の主義思想に読者を誘導するというよりは、あるテーマに対する作者自身の考えや思索を垣間見せてくれるような幸村節が、作者を直に見せてくれるようで私は大好きです。

ヴィンランド・サガに話を戻すと、今作では「本当の強さとは何か」が主軸となっていると思われます。
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父・トールズの示した「本当の戦士」に対して、復讐の鬼であったトルフィンが紆余曲折を経ながらもがき、向かっていく様は、プラネテスのハチマキと同様の構図です。
(最新巻*1でも、トルフィンなりの進む道を見せてくれて涙がちょちょぎれました。)
プラネテス同様の幸村節を感じることが出来る象徴例として、本作の主要人物の一人、クヌート(以下「クヌ」)と神父ヴィリバルド(以下「神父」)の6巻でのやり取りとプラネテス4巻のロックスミスのセリフを示します。

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クヌ「…愛とはなにかだと? ラグナルは私を愛していなかったというのか?」
神父「…はい…。」
クヌ「ならば問うのは私の方だ。ラグナルに愛がないのなら、正しく愛を体現できるものはどこにいるのだ。」
神父「そこに居ますよ。彼は死んでどんな生者より美しくなった。愛そのものと言っていい。彼はもはや、憎むことも、奪うことも、殺すこともしません。素晴らしいと思いませんか?彼はこのままここに打ち捨てられ、その肉を獣や虫に惜しみなく分け与えるでしょう。風にはさらされるまま、雨には打たれるまま。それでも一言半句の文句も言いません。死は人間を完成させるのです。」
クヌ「…愛の本質が…死だと言うのか。」
神父「はい。」
クヌ「…ならば我が子を…夫婦が互いを、ラグナルが私を大切に思う気持ちは一体何だ?」
神父「差別です。王にへつらい、奴隷に鞭打つことと大してかわりません。ラグナル殿にとって王子殿下は他の誰よりも大切な人だったのです。恐らく彼自身の命よりも…。彼はあなた一人の安全のために、62人の村人を見殺しにした。差別です。」
クヌ「…そうか…わかってきた…。まるで霧が晴れていくようだ…。この雪が…愛なのだな。」
神父「…そうです。」
クヌ「あの空が、あの太陽が、吹きゆく風が、木々が、山々が…。なのに…なんということだ…。世界が、神の御技がこんなにも美しいというのに…人間の心には、愛がないのか。」
(『ヴィンランド・サガ』6巻より引用)

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ロックスミス「真理の探究は 科学者が自らに課した使命です 『本物』の神はこの広い宇宙のどこかに隠れ 我々の苦しみを傍観している いつまでもそれを許しておけるほど 私は寛容な人間ではない 神が愛だと言うのなら 我々は神になるべきだ さもなくば…我々人間は これから先も永久に…真の愛を知らないままだ」 
(『プラネテス』4巻より引用)

いやぁ、幸村節ムンムンですね。
サラッと紹介しましたけど、結構重要なやり取りでして。
クヌートのロックスミスへの漸近と、ストーリー上でのトルフィン(トールズ)との対比には、氏の描きたいテーマの一貫性が見え隠れします。
そういう意味では、前作プラネテスの次を見せてくれる作品としても期待できます。
刊行ペースはお世辞にも早いとは言えませんが、ずっと追っていきたい一作ですね。

- まとめ
人間の愛は選択的であるが故に、差別となる。
差別であるが故に、嫉妬や羨望が生まれてしまう。
世界はこんなにも美しいというのに、クリスマスにルサンチマンを抱く漫トロ民と、差別的性愛を体現するクリスマSEX民のなんと醜いことか。

はやく『ヴィンランド・サガ』を読んで真の愛を知りましょう!
なお、このブログから購入すると、更に真の愛に近づけること請け合いですよ!

ヴィンランド・サガ(12) (アフタヌーンKC)

ヴィンランド・サガ(12) (アフタヌーンKC)

*1:11/22発売の12巻。好評発売中。